

映画監督の上田慎一郎さんの「カメラを止めるな!」は昨年、爆発的な人気となった。上田監督の最新作「スペシャルアクターズ」は、気絶しそうなプレッシャーの中、初めてのスランプを乗り超えて作りあげた。人を巻き込み、巻き込まれて人生を切り開いてきた上田監督を、AERA 2019年10月21日号に掲載された「現代の肖像」から一部紹介する。
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次の言葉が「えーと」から10秒出てこない。
視線が宙を泳ぐ。涙、なのか? テレビなら放送事故になる沈黙に、客席で固唾をのむ。
8月末、東京・五反田にあるイマジカで上映された映画「スペシャルアクターズ」(スペアク)の初号試写会でのことだ。映画終了後、いつもの笑顔と軽快なノリで始まった監督、上田慎一郎(35)の挨拶で、マイクを握る手が震えるなんて、会場の誰も予想できなかっただろう。
でも、今日まで上田が晒されてきたプレッシャーの強烈さを知れば、この沈黙の10秒間にこめられた意味が痛いほど分かるはず。
なにしろ上田の前作「カメラを止めるな!」(カメ止め)は予算300万円、有名俳優ゼロのインディーズ映画なのに、たった2館からなんと353館にまで拡大上映し、観客動員数は220万人を超えた。そのうえ日本アカデミー賞最優秀編集賞など70もの映画賞をかっさらったという、世紀の大化け映画なのだ。
それだけに業界や映画ファンたちは、カメ止めの次の単独監督作スペアクを、「あの才能は本物?」「これぞ勝負作」と熱く注目している。
スペアクの主人公は、圧がかかると気絶する気弱な俳優。主人公は弟から頼まれ、依頼者の困りごとを芝居で助ける俳優チーム「スペシャルアクターズ」に入り、古い旅館をカルト集団から守るために闘う。いわばスリルと笑いに満ちた「役者たちのミッション:インポッシブル」なのだが、上田はこの作品を「自分の気絶しそうなプレッシャーを脚本に落としこんで」作り上げたと言う。確かに、舞台挨拶で言葉に詰まっている上田自身の緊張は、スクリーンで震えていた主人公の緊張にシンクロしすぎ、と思った次の瞬間、上田がバンッと両手を叩いた。