
映画「マチネの終わりに」の公開を控えた俳優・ミュージシャンの福山雅治さんがAERAに登場。「格好良くみせようとしない格好良さ」そんな彼の魅力は、一体どこから湧いてくるのか? AERA 2019年10月21日号から。
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彼のラジオのファンなら「何を今さら?」と思うだろうが、福山のトークは抜群に面白い。インタビューすると、毎回笑わされっぱなしで終わってしまう。だが、取材ノートを読み返すと、笑いの合間合間に、彼の音楽や芝居の神髄を分かりやすい言葉でさりげなく語っている。
今回は、彼がギタリストを演じた映画「マチネの終わりに」について聞いた。この主人公はデビュー20年を迎え、自らの音楽性に迷いが生じている。アーティストがキャリアを重ねていくことの意味を、随所に笑いをまぶしながら、とても丁寧に話してくれた。
彼のトークがなぜ面白いかというと、自らを飾ろうとしないからだ。格好良く見せようという心の鎧が見えない。まあ、これほど完全な容姿と才能を持っていれば、わざわざ飾る必要もないのだろう。トップスターであっても、心の鎧を着ている人は少なくない。彼は飾らない方が魅力が増すことを知っている。
映画やドラマで演じてきたキャラクターにも、その飾らなさが表れている。是枝裕和監督の「そして父になる」と「三度目の殺人」では、その類いまれな容姿を生かして、鼻持ちならないエリート会社員と弁護士を演じた。「ガリレオ」は天才科学者ではあるが、完全な変人だ。今回のギタリストは彼のフィルモグラフィーの中では圧倒的に格好良い方ではある。それでも、彼がインタビューで語っているように、少々変なところがある。そして何より、彼はいつも、ほぼ年齢相応の役をやっている。これも、若々しさばかりが求められる現代のスター俳優にはなかなか出来ない芸当だ。来年公開される岩井俊二監督の「ラストレター」でも、いつもの彼とはちょっと違う中年男の魅力を見せてくれている。(朝日新聞編集委員・石飛徳樹)
※AERA 2019年10月21日号