山中:同時受賞させていただいたジョン・ガードン先生が元になる実験をされたのが1962年、僕が生まれた年なんです。その実験を元に私たちがiPS細胞を見つけた。便乗して一緒にいただいたという形です。iPS細胞だけ見ると受賞は早かったという印象がありますが、細胞の初期化ということに対しての受賞だと考えると、当初の実験から50年経っていることになります。基礎研究の成果が本当の意味で認められるのには、数十年かかるのです。大学の使命は、まずは水をまくこと。どこから芽が出るかは、水をまいてみないとわからない。芽が出てきたらそこに水をやって育て、さらに大樹にしていく。そして最後は企業に渡すことになりますが、どのタイミングで橋渡しするかはケース・バイ・ケースで、こうすれば必ず成功するというセオリーはありません。

田中:研究の実用化には、早稲田大学も相当力をいれています。工学系で実用化できるものは産学連携を進めるよう、大学として後押ししています。

山中:iPS細胞は偶然、私たちのところで芽が出た。どこまで育てて企業に渡すかに関しては、ずっと考えています。10年前に比べればだいぶ大きくなってきましたが、もう少し育ててから企業にお渡しするのが一番早く花が咲くと思っています。最初は好奇心でやっていましたが、芽が出た今は、大きな責任を感じています。

田中:基礎研究と同様、人材育成にも長期的な視点が必要ですよね。若い人でも緊張感をもって研究している人が多いですから、焦らずにしっかり人材を育てることが大事だと思います。(構成/編集部・小柳暁子)

AERA 2019年10月21日号より抜粋

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