今年のノーベル賞が発表された。研究者の育成に力を入れる早稲田大学の田中愛治総長と2012年にノーベル賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長が、大学の研究力や競争原理の功罪、人材育成の課題などについて語り合った。AERA 2019年10月21日号に掲載された記事を紹介する。
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山中:私が大学院生だった90年代初頭くらいには、難しい研究課題にじっくり取り組むことができました。ただ同時に、それに安心してしまい、あまり研究しない人も少数ですがおられた。そういった一部の方に目がいってしまった結果、競争原理が大学に入ってきて、長期でじっくり研究することが難しくなってきました。さらに生命科学の基礎研究にはこれまで以上にお金がかかるようになりました。私の時代は年間100万円から200万円くらいの研究費で賄っていましたが、いまは大学院生1人につき年間1千万円くらいの研究費がかかり、それでも足りないくらいです。どのように工夫して乗り切るのかが、共通の問題ではないかと思います。
田中:自然科学系は特にそうですが、人文社会系でも同じです。単に人より優れた研究をせよと競争を促すのではなく、アカデミックに意義のある研究をしようとしている研究者をもり立てるような施策が必要です。
山中:いまは研究者が3年や5年といった、非常に短期間で成果を求められることが多いです。よい面もあると思いますが、研究の楽しさはわからないかもしれない。財源が限られているのが悩みどころですが、できるだけいろんなことにチャレンジしてほしい。うまくいかなくてもいいから、失敗を恐れずに積み重ねてほしい。
田中:日本はOECD諸国の中で、教育にかける公的支出のGDP比の割合が最下位です。もっとおおらかに緩やかに研究と教育を支えていかないと、伸びません。山中先生は若くしてノーベル医学生理学賞を受賞された天才的な方ですが、政府の人がそれが当たり前だと思ったら大間違いです。ノーベル賞は、30代とか40代の頃に発見したものがその30年後とかに実用化され、70代とか80代で受賞することが多いです。30年、40年後に評価がくる、それくらい丁寧に基礎研究をやってこそ、世界人類への貢献になるのだと思います。