ラグビーW杯で強豪国アイルランドやスコットランドを次々と撃破し、1次リーグ4戦全勝で決勝トーナメント進出を決めた日本。その勢いは、もう止まらない。AERA2019年10月21日号では、日本代表の成長の秘密を特集。強さのカギは「共生」と「多様性」にあった。
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試合前の国歌斉唱。赤白の桜のジャージーを着た選手たちが肩を組み、言葉をかみしめるように君が代を歌う。そういえば大会前に、南アフリカ出身で、日本チームのゲームキャプテンを務めることもあるピーター・ラブスカフニ(30)は言っていた。
「小さな石が一つの大きな岩になる。まさに私たちがやろうとしていること。一丸となってゴールに向かっていく」
■国歌の意味まで知る
7月、宮崎市での強化合宿を終えた日本代表は、宮崎県日向市の大御神社を訪れた。ここには高さ約4メートル、周囲が約30メートルある日本最大級の「さざれ石」がまつられている。小さな石ころが粘土や砂と混じり、長い年月をかけて大きな石となったものだ。その前に立った選手たちは、説明を聞き、君が代を歌った。ニュージーランド出身のリーチマイケル主将(31)は言った。
「国歌の意味まで知ることが日本代表だと思います」
現在の日本代表は、登録選手31人のうち、半数近くの15人が外国出身選手(母親が日本人で南アフリカ生まれの松島幸太朗は除く)。7カ国出身者からなる多国籍チームが一つになるために、2015年のラグビーワールドカップ(W杯)前に続いて2度目の訪問だった。
W杯で大躍進する日本チームを見ていて、日本代表なのになぜこんなにも外国人選手が多いのかと疑問に思っている人もいるだろう。その理由は五輪やサッカーの代表選手と違い、ラグビーの場合は国籍を持たなくても、「3年以上継続して居住」「両親、祖父母の1人が生まれている」「通算10年の居住」のいずれかの条件を満たせば代表選手になることができるからだ。
国籍を必須としない背景には、ラグビーの発祥と歴史がある。立命館大学の松島剛史准教授(スポーツ社会学)によると、ラグビーが生まれたイギリスでは、1890年代に植民地からイギリスへ来た人物を代表選手に選んでいいのか議論になり、居住を条件に出場資格が認められるようになったという。
「現在、多様性を生みだしている開かれた規定は、もともとは帝国主義時代に生まれた帝国内向けの閉じられた規定でした」(松島准教授)