橋本さんは、3人で活動する理由を、次のように話す。

「三者三様の体験や思いを語ることで、虐待被害には『正解』も『間違い』もなく、結末も人によって違うのだと伝えられる」

 弟の死後、橋本さんは父親の再婚相手にも暴力やネグレクトを受けた。食事を与えられず、道に落ちている食べ物やヒマワリの種を食べて、飢えをしのいだ。中学生になり、自分から児童養護施設に入所した。一方、ヤマダさんは「私はどんなにつらい仕打ちを受けても、母親と一緒にいたかった」と話す。橋本さんは成人して父親と話し合ったが、サクラさんは親と絶縁状態になることで、精神的な落ち着きを取り戻しつつある。

 話し手が1人だと、聞き手はその人の言葉が「虐待被害者」全体を代弁していると思いがちだ。また、事件が起きると「被虐待児はとにかく親から離して保護すべきだ」といった、一律の解決策に世論も傾いてしまう。だがヤマダさんは、人々が思考停止に陥るのが怖いという。

「私たちが意見を言い合うことで、聴き手も『違う意見を持っていい』と気づき、自分なりに考えてくれるのではないか」

 3人はこれまで、弁護士や医療関係者らの勉強会にも招かれ、生い立ちや虐待の実態、親に対する思いなどを赤裸々に話してきた。和光大での講演は2年連続で、昨年聴講した学生の一人は今、被虐待児を支えるアルバイトをしているという。

「話を聴いてくれた人が、社会的養護の仕事に就くのは嬉しい」とヤマダさんはほほ笑む。(ジャーナリスト・有馬知子)

AERA 2019年10月7日号より抜粋

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