タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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「『報ステ』でハラスメント事案。元テレビ朝日報道局員の私が伝えたいこと」という記事が話題です。書いたのはハフポスト日本版の湊彬子記者。ハラスメントが日常化している職場の病理と、そこで働く人々の葛藤。多くの日本の職場が同じような状況にあるでしょう。
昨年の福田淳一財務事務次官(当時)によるテレビ朝日の女性記者へのセクハラ問題では、霞が関とメディア業界の認識の甘さが批判され、女性記者やキャスターたちが連帯して声をあげました。「だから女は」と言われることを恐れて、セクハラをセクハラと思わないようにしてきた女性たちが「そんな環境こそがおかしい。もう変えよう」と怒りを表明したのです。
それから1年余り。彼女たちの尽力の甲斐あって、ハラスメント関連の問題が次々と報じられ、世間の常識も変わりました。法律が改正され、ハラスメントをなくす方向へと社会が動きつつあることは明白です。その最中に、まさに問題を報じた番組の内部で、幹部が複数の女性にセクハラをしていたのです。加害者の属人的な要因だけではなく、職場の風土の問題であることは湊記者の指摘の通りです。
なぜ、変わらないのか。ハラスメントへの無理解に加え、根底には「少数者が声をあげて世の中を変えられると思うなよ」という報復の心理が働いているのではないでしょうか。偶然この事案の発覚と同時期に発表された組閣でも、問題のある人物を人事で厚遇することによって、告発を無効化する動きが見られます。批判を封じるのにこれほど効果的なことはありません。言っても無駄だ、と人々が諦めれば、社会に変化は起きませんから。
黙らせようという力が働くときに、黙らないのが報道の使命です。報道機関は、小さな声を聴き、世に訴える役割を自ら果たしてほしいです。
※AERA 2019年9月30日号