小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
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世界中で人権や平等は命がけで勝ち取られてきた。2017年、ボストンでヘイトスピーチに抗議し、デモ行進する人たち (c)朝日新聞社
世界中で人権や平等は命がけで勝ち取られてきた。2017年、ボストンでヘイトスピーチに抗議し、デモ行進する人たち (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 テレビやツイッターですっかり悪者にされている「キレイゴト」。理想論を振りかざす世間知らずのエリートより、「ホンネ」を堂々と語るやんちゃ者の方が信用できる、という定番の構図です。洋の東西を問わず、このキレイゴト批判はウケるようで、時には熱狂的に支持されます。みんながひそかに思っていることをズバズバ言うリーダーこそホンモノだと。相手の言葉を「そんなのはキレイゴトだ」と打ち消せば1秒もかからずヒーローになれるのですから、実に便利です。

 じゃあホンネはいつも世界をマシにするのか。そうではないから、多くの人が文字通り命がけで人権とか平等とか、生きるために必要なキレイゴトを勝ち取ってきたんでしょう。キレイゴトがないと人が死にます。人は差別をするものだと開き直れば、少数派が殺されたり、自ら命を絶つまで追い込まれる。自分はこの社会の多数派だから知るものかという人も、情勢や立場が変わればいつ少数派になるかわかりません。理不尽な排除と暴力にさらされる立場になって初めて「“差別はいけない”は現実だった」と気づいても手遅れです。

 私は女性であり、不安障害という精神疾患があり、ADHDという発達障害があり、黄色人種です。女は男に逆らうなとか、メンヘラは引っ込んでろとか、障害者は役立たずだとか、アジア人は二級市民だという誰かのホンネは、どれも私にとっては脅威です。それで実際にたくさんの人が迫害され、殺されたから。差別はいけない、は私の本音なのです。だからここでもなんども書いてきたし、これからも書きます。

 隣国を罵り、外国から働きに来た人を人間扱いせず、フェミニズムを嗤(わら)い、LGBTをお荷物扱いするホンネに喝采する人は、いつかその刃が自分に向くことを想像してほしい。キレイゴト上等です。

AERA 2019年9月23日号