7年もの構想期間を経て公開される「人間失格 太宰治と3人の女たち」。主演を務めるのは、蜷川監督が「太宰を演じるなら彼しかいない」とラブコールを送った小栗旬。「究極のダメ男 太宰治」をどう演じたのか。AERA 2019年9月16日号から。
【映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」の場面写真はコチラ】
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太宰治の小説『人間失格』の映画化の話が蜷川実花監督にあったのは、7年ほど前だ。太宰の妻、愛人二人の手記を読むうち、太宰自身の人生に惹かれ、「彼らの物語を描きたい」と考えた。そして生まれたのが映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」だ。
蜷川実花:太宰を誰に演じてもらうかを考えたとき、いろいろな人が頭をよぎったのですが、ふと「小栗君はどうだろう」って。太宰は人気作家ではあったけれど、文壇から正当な評価を受けてはいなかった。そこには“トップを走っている人にしか見えていない景色”があったはず。スターが孤独を抱えているという意味でも、考えれば考えるほど小栗君しかいない、と思うようになって。
小栗旬:正直、最初は「なかなかきついな」と思いましたね。
蜷川:そうだよね(笑)。
小栗:あまり共感されるキャラクターではないですからね。最終的には脚本が面白かったので、「大変そうだけど、やったらやったで楽しそうだな」と。太宰は欲望の赴くままに生きていますよね。理性で止めるところを止めないで動いていて、エキサイティングだなって。
蜷川:すごく人間臭いよね。極端なことをするのに、ほかの人の気持ちも考えてしまうから、どんどん大変になっていく。
クランクイン前日に寝られなくて、二人で会って話もして。「クランクイン前日は小栗君でも緊張するんだ」と知ることができて安心した部分もあったな。
撮影に入ってからは、日々発見と驚きの連続。観たことのない小栗旬がどんどん出てくるんです。女の人といるときの太宰と、男の子のなかにいる太宰では、表情がまるで違う。
小栗:ドロドロした物語なのに、実花さんの現場は、みんなすごくカラッとしているんですよ。「きつい物語だからずっとストイックでいなければいけない」とは僕は思っていないけれど、現場って監督の人柄が出る。実花さんがふわっとした方であることが大きいのかな。