そんな中、高村さんは合田を「等身大」の男にしたかったと言う。長い人生で失敗もすれば後悔もする、57歳という年相応の男に。12年前の事件を解決できなかった合田は、独りごつ。

<欠けていたのは想像力か、集中力か。それとも執念か、それらを合わせた自身の捜査能力か>

「(合田は)若いころは割と面倒くさい男だったんですけど、年相応に落ち着いてきて。まあ、いい男になっていると思います(笑)」

 物語の最後、合田は本庁に異動する。合田が警察を定年退官するまであと3年。ファンにしてみれば、あと1度は登場してほしいと思うが、

「結局は私の気持ちですね」と、静かに笑った。(編集部・野村昌二)

■HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんのオススメの一冊

『神前酔狂宴』は、祝祭の茶番を描くパーティー小説だ。HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんは、同書の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 初詣だけではなく、結婚式場としても人気が高い明治神宮には「高堂(こうどう)」と「椚(くぬぎ)」という神社がある。いずれも会館を併設しており、規模が大きく披露宴の数も多い「高堂」では、従業員を派遣アルバイトで賄っていた。

 配膳係として採用された浜野と梶も、出勤の際には拝殿に一礼こそ欠かさないが、まだ18歳の若者である。時給の高さや、「ちゃんとした」イメージに惹かれて、この派遣先を希望しただけなのであった。

 だが、コース料理を提供する宴の裏側は、常に戦場だ。派遣だろうが新入りだろうが、チンタラしていては殺される勢い。やがて彼らはリーダー的存在となり、いつしか仕事に誇りを持ち始め、「高堂」の人間として、対立する「椚」との戦いにまで心血を注ぐ。

 披露宴は無事終わっても、酔狂な彼らのパーティーは、まだまだ終わりそうにない。

AERA 2019年9月9日号

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