「牧草と同じように青刈りして繊維質を多く与えるのと、栄養価を高めるためにトウモロコシの実を与えるのは別のものです。家畜を育てるには両方をバランス良く与える必要があります」

 大手飼料メーカーの幹部は「野菜が足りないからとコメを輸入するようなもの。菅さんの説明は大ウソだ」と憤る。

 政府がつじつまの合わない説明をするのはなぜなのか。鈴木教授は言う。

「安倍政権は、米国との貿易交渉に入る前に『TPP以上の譲歩はしない』と説明してきました。それが、米中の貿易摩擦の“尻ぬぐい”でトウモロコシを日本が輸入することになると『TPP超え』になってしまう。そのことの言いわけに、『害虫被害が発生した』と説明したのでしょう」

 このままでは、今後輸入されるトウモロコシが国内でだぶつくのは避けられそうにない。前出の大手飼料メーカー幹部はこう嘆く。

「国内価格が暴落すれば、これまで高く仕入れたものを安く売らざるを得なくなり、商社と飼料メーカーが壊滅的打撃を受けることになる」

 トランプ氏を喜ばせた「ビッグディール(素晴らしい取引)」は、国内の業者にとってはまさに悪夢だ。

 鈴木教授は言う。

「害虫被害が限定的であることは調べればわかるのに、多くのメディアがそのことに触れていません。安倍政権の説明を“忖度”してそのまま報道しているとしたら残念です」

(AERA dot.編集部・西岡千史)

AERA 2019年9月9日号