姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
この記事の写真をすべて見る
(c)朝日新聞社
(c)朝日新聞社

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

*  *  *

 日韓関係は底が抜けたように悪化の一途を辿りつつあります。韓国大統領府は8月22日、関係閣僚らが出席する国家安全保障会議(NSC)を開いて日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延長の可否を議論し、協定を延長せず終了させることを決めました。これまで私はGSOMIAの破棄には反対の意を示してきたつもりですし、今も変わりはありません。

 日韓が鍔迫(つばぜ)り合いを演じる間隙を縫うように、北朝鮮は立て続けに新型の短距離ミサイル開発に邁進し、貴重な実戦配備のためのデータを獲得しています。北朝鮮によるこの無謀な挑発をトランプ大統領は事実上、黙認しています。

 金正恩(キムジョンウン)委員長と「ブロマンス」(「ブラザー」と「ロマンス」の掛け合わせ)の関係にあるらしいトランプ大統領が、米国本土を脅威に晒す大陸間弾道ミサイル(ICBM)以外のミサイルはどうでもいいと高を括っていて、これまで開発された核兵器のフリーズだけを条件に北朝鮮との交渉を進めようとしているのだとしたら、北朝鮮の核とミサイルという「ダモクレスの剣」のもとに常在、危機にさらされる日韓はたまったものではありません。

 しかも、トランプ大統領は、在日、在韓ともに駐留米軍経費の大幅な積み上げを要求し、経済的なコストの面から在日、在韓米軍の見直し検討を公言しています。そんなトランプ大統領に日韓が個別的な愛顧関係のさや当てを演じて、一体何の意味があるのでしょう。もはや同盟国に対する米国の寛容な外交・安保政策を期待することはできなくなっています。「ギブ・アンド・テイク」のビジネスライクな同盟関係へと移行せざるをえなくなっているのですから、米国をめぐる日韓の「求愛ゲーム」のバカバカしさに気づくべきでしょう。

 たとえ日韓の間に親密な友好関係を築くことが難しいとしても、ビジネスライクな関係を結ぶことは可能ですし、その立場から安全保障上の脅威の削減に向けて協力し合うことはできるはずです。狭量なナショナリズムによる「パトリオット・ゲーム」にうつつを抜かしている余裕などないのです。

AERA 2019年9月2日号