高齢の親とひきこもり状態の子が孤立する――。親と子の年齢から「8050問題」と呼ばれている。彼らに何が起きているのか。当事者たちの奮闘をノンフィクションライター・古川雅子氏が追った。
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東京・巣鴨のとげぬき地蔵尊のほど近く、古いビルの一角で毎月開かれる、「楽(らく)の会リーラ」主催の“おやじの会”。
カフェタイムに訪れると、60~70代の5人の父親たちが三々五々集まってきた。話題はもっぱら、長くひきこもる子どもとの関わりについてだ。
ある父親(72)は、氷河期に派遣会社に就職した息子(44)が、何年勤務しても正社員になる機会がつかめずに苦しみ、統合失調症になったと打ち明けた。
「息子は近所とのトラブルで警察沙汰になり、6年前に家に戻ってきた。初めは『ゴロゴロしないで勤めろ』と、私の価値観を押し付けていたけれど、子どもの心理を学んだら、私のやり方は真逆だったと気づきまして」
頷きながら話を聞く父親たちの表情から、それぞれが抱える課題の大きさが透けて見えた。
参加者にコーヒーを淹れ、場を和ませる市川乙允(おとちか)さん(72)は、ひきこもり当事者と家族の支援活動を続けて18年。現在は「楽の会リーラ」事務局長だ。“おやじ”に特化した集まりを開く理由をこう語る。
「家族からの声で圧倒的に多いのが、『父親が息子、娘のことをわかってくれない』ということ。父親たちは総じて会社人間で、極端に言うと、『働かざる者食うべからず』という視点で子どもを見てしまう。昔からの一般的な規範にとらわれている。そこが少しでも変われば」
市川さん自身の反省もある。中学校時代に不登校を経験している娘は、結婚、出産を経て30代後半になり、地域の人間関係に悩み、断続的にひきこもり状態に陥った。娘は実家近くに家を借り、夫、子どもの3人家族で住み、親と近居して切り抜けた。
「娘の言動は、当初は『ネガティブで被害妄想的』だと感じていました。つい、『そうじゃないだろう』と口を挟んだりして。でも、それは娘の心の内側を見ようとしていなかったんですね」