福田晴一(ふくだ・はるかず)/昭和31(1956)年、東京都生まれ。みんなのコード学校教育支援部主任講師、元杉並区立天沼小学校校長。約40年の教員生活を経て、2018年4月NPO法人「みんなのコード」に入社。61歳で新入社員となる。2020年度からの小学校におけるプログラミング教育必修化に向け、指導教員を養成すべく、全国を東奔西走中福田晴一(ふくだ・はるかず)/昭和31(1956)年、東京都生まれ。みんなのコード学校教育支援部主任講師、元杉並区立天沼小学校校長。約40年の教員生活を経て、2018年4月NPO法人「みんなのコード」に入社。61歳で新入社員となる。2020年度からの小学校におけるプログラミング教育必修化に向け、指導教員を養成すべく、全国を東奔西走中
これからの時代、ママさんエンジニアが増えるかも!?(※イメージ写真/istock)これからの時代、ママさんエンジニアが増えるかも!?(※イメージ写真/istock)
 61歳で公立小学校の校長を定年退職した福田晴一さんが「新入社員」として入社したのはIT業界だった! 転職のキーワードは「プログラミング教育」。全国を教員研修で回っているうちに63歳となった。今回は、これからの時代に期待される女性エンジニアについて考えたい。

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 全国の小学校で着手し始めたプログラミング教育。導入時によく使われるのが、コンピューターを使わないアンプラグド型の教育である。その代表的な教材として、世界20カ国以上で翻訳されている『ルビィの冒険』という絵本がある。

 この絵本は、教育大国と言われるフィンランドで、女性プログラマーでありイラストレーターでもあるリンダ・リウカスさんが、プログラミング教育を学ぶ糸口になるように作成した絵本だ。好奇心の強い女の子が冒険を通して、大きな問題を小さな問題に分けたり、散らばった情報のをパターンを見つけたりしていく内容で、小学校の低・中学年児童がプログラミングに必要な考え方を楽しみながら触れられるストーリーとなっている。

 彼女は、昨年、ヨーロッバの経済誌『Forbes』が選ぶ、“テクノロジー系の欧州の女性トップ50人”にも選出されている。私も彼女の来日記念講演に参加したが、彼女の言葉には頷くばかりであった。

 彼女が活動を始めたきっかけは、「10年ほど前、需要がありながらもプログラミングの基礎を教えるようなプログラムはなかった。でも、プログラミングに興味のもつ若い女性たちがいることを知り、その人たちと一緒にコミュニティーを作ろうとした」こと。また、「若い頃から、『テクノロジー』『教育』『プログラミングに関係ない人たち』に興味をもっていて、この三要素を常に頭に入れながら、活動を進めてきた」と語っていた。このコメントは、まさに今の日本のプログラミング教育を進める上での課題でもあり、推進する後押しになる三要素である。

 となれば当然、そのコンセプトが詰まった『ルビィの冒険』は学校現場で親しまれるのは当然である。著者の32歳の女性プログラマー、リンダさんは多くの国の教員にも慕われてきた。

 
 これまでも紹介してきたが、女子児童のプログラミングへの食いつきはとても良い。男の子の方が取得が早い、などといった性差を感じることはまったくない。しかし、現実に女性エンジニアは、業界内で二割にも満たないと聞く。女子児童があれだけ真剣に取り組む姿からは結びつかないが、「二割にも満たない」その背景は、どこにあるのだろうか。

 日本には文系・理系をはっきりと分ける教育制度が根付いて、IT系の技術者は、基本的に理系出身者を採用、ITは理系でなければ活躍できない業界と思われている。その上、理系というと「リケジョ」という表現があるように女性が少なく、男性社会というイメージがあり、女性エンジニアの進出が低いのではないか。

 また現在、IT業界は人手不足のため、労働時間が長いという話も聞く。プロジェクトの遂行や突発的なトラブル対応で残業続きとなるといった過酷な労働環境が、女性進出に影響しているとも考えられる。

 しかし視点を変えれば、女性エンジニア進出のメリットも大きい。

 まずは、IT業界は基本的には男女差は生じない。もちろん、残業とか厳しい状況もあるだろうが、それはIT企業に限ることではない。また、子育て中の女性でもリモートワーク(在宅就労)や短時間勤務が可能である。つまり、長年の課題となっている「育児と就労」の両立を可能とするライフスタイルを構築しやすい。

 その他、最近の就職支援系のSNSのコメントを見ると、「時短がとりやすく、若い女性が増え始めた」「年齢に関係なく実力主義である」「兼業兼職、再就職、職場復帰がしやすい、働きやすい環境である」「服装も自由度が高く、休暇も取得しやすいオープンな職場環境」等々の、女性エンジニア進出を後押しする投稿も目に付く。「IT企業は、優しい男性が多い」という声も!(わが社もそうである!!)

 ここからは、全くの私見だが、子どもたちがふだん目にするアニメでもっと女性を、特に母親の多様な働き方を描いて欲しいと思う。

 
 例えば「サザエさん」。あれだけコミュニケーションに長け、明朗快活なキャラクターのサザエさんなら多様な就労が考えられるのに、専業主婦。もし、サザエさんがカツオ君やタラちゃんの前で、パソコンを通してリモートワークをしていたらどうだろうか。または、昼間だけでもフレキシブルにIT企業に仕事に出かけていたらどうだろうか。650万人いる日本の小学生の多くの目に、女性のIT関係の仕事が留まるはずである。今までのファミリー向けアニメでは、サザエさんだけでなく、「ちびまる子ちゃん」のお母さん、すみれさんも、「ドラえもん」に出てくるのび太くんのお母さん、玉子さんも専業主婦。男子に人気の「クレヨンしんちゃん」のママ、みさえさんもこれまた、専業主婦の想定である。

 日本では、15年前に専業主婦家庭と共働き家庭の比率は逆転し、今や共働き家庭は専業主婦家庭の二倍となっている。もし、アニメに登場する母親たちが、ITのメリットをフルに使って自宅でリモートワークやフレキシブルな勤め方をしていたら、子供たちの眼に映るこれからの女性の生き方のイメージが変わるのではないだろうか。

 もちろん、子どもたちだけでなく、今子育て中のお母さんたちだって遅くはない。どうせなら、子どものプログラミング学習開始に合わせて、テクノロジーと距離を置いていたお母さんも一緒に取り組んでみてはいかがだろうか。子育てから少し余裕ができた時に、エンジニアデビューも夢ではないかもしれない。

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福田晴一(ふくだ・はるかず)/昭和31(1956)年、東京都生まれ。みんなのコード学校教育支援部主任講師、元杉並区立天沼小学校校長。約40年の教員生活を経て、2018年4月NPO法人「みんなのコード」に入社。61歳で新入社員となる。2020年度からの小学校におけるプログラミング教育必修化に向け、指導教員を養成すべく、全国を東奔西走中

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