気もめいった。アルコールを入れると痛みが和らぐ気がしたため、夜はワインや焼酎をたくさん飲んだ。だが、酔っていても、痛みのため十分に眠れず、すぐに起きてしまう。一晩中うめいていたから、妻も眠れなかった。
手術の数日前の深夜、体が硬直して動けなくなり、救急車を呼んだ。通院していた病院とは別の近所の病院に運ばれた。搬送先の病院でモルヒネを渡され、「痛いときに飲んでください」と言われた。翌朝まで1時間おきにいくつも飲んだが、効かない。
数日後の手術は、腰から内視鏡を入れて、神経を圧迫している組織を取り除くというもの。手術前は、不安もあった。「ヘルニアは再発することがある」と聞かされていたからだ。「2度目の手術はやりにくい」という話を聞いたこともあった。
幸い、記者の場合、手術後、痛みはうそのように取れた。内視鏡を入れた辺りに突っ張る感覚がしばらくはあり、腰をかばうように生活した。が、その後の経過は順調で、指示されていた腰痛予防体操もサボりがちになった。
改めて、記者が手術した総合せき損センター院長代理の前田健医師にヘルニアについて話を聞いた。
「ヘルニアの原因については、事故などの外傷を伴って発症することはまれにありますが、通常は加齢による椎間板の変化がベースにあります」
前田医師によると、手術をしても場合によっては痛みやしびれがすべて取り切れずに残るケースもあるという。
名倉さん休養のニュースを受け、手術前後のストレスでうつになるのか? と、疑問に思う人も多いかもしれない。だが、ヘルニアの痛みによるストレスがあまりに大きいことは想像に難くない。記者のように、痛みが過度な飲酒や不眠を誘発したケースもある。手術前は、「この痛みが一生続いたらどうしよう」と不安になり、気持ちが安定しなかった。
昨年6月、再び腰に痛みを感じた。それを伝えると、妻はひどく動揺した。
「またあの生活がはじまるの……?」
再発したら、あの辛さをまた経験することになるのか――。その恐怖から、水泳と腰痛予防の体操を始めた。
今も左臀部の違和感や、左下肢のちょっとしたしびれを感じることがある。「もしかしたら、ヘルニアが残っているのか」と心配になる。水泳と体操で腰回りの筋肉の維持に努めている。(編集部・小田健司)