

AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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英国庶民の日常に横たわる様々な問題をテーマに、半世紀にわたり名作を生み出してきたマイク・リー監督。新作は1819年、6万人もの市民が襲われたピータールーの虐殺事件に目をむける。
「現場に近い所で育ったが、不思議なことに子どもの頃、この事件については知らなかったんだ。歴史の授業で触れたこともない。詳しく知ったのは成人してからだ。誰かが映画にしたら面白いとも思った。ただその誰かが自分になるとは思わなかったよ」
と知られざる故郷マンチェスターの歴史の一ページについて語る。
映画はジョセフ青年が、ナポレオン戦争から自宅に帰還するところから幕が開く。社会の底辺である貧しい労働者の家庭の出身だ。増税に苦しみ日々の生活もままならない。そんな彼らの間で選挙権獲得を提唱する運動が起こり、ロンドンから著名な活動家を招いた集会が計画される。しかし平和なはずの催しは、軍隊の突入により惨事と化すのだ。
「公文書館や大英図書館などあちこちに膨大な記録が残っていた。演説原稿や新聞記事、政府高官の手紙など。永久にリサーチができた。だからと言って良い映画が撮れるわけではないからね。物語に生を吹き込むことが重要だ」
1815年から19年まで5年間、労働者階級の庶民、中産階級の活動家、治安判事、軍人、政府高官や摂政王太子など、社会を多くの異なる視点で捉えつつ、事件の進展を追う。
「主人公がいないのは、事件に主人公がいないから。各階層で何が起こったかが重要だ。史実と脚色をどんな割合で組み合わせるか、計算式はないんだ。何がエンターテインメントで何が芸術作品かを考慮した。本作はドキュメンタリー映画でなく巨大な不正行為についてのドラマだから」