「売り手市場」が続く一方で、離職率も依然として高いままだ。企業にも個人にも痛手となる「ミスマッチ」を防ぐための新たな手法が注目されている。
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鬼門だった「魔の3カ月」は乗り切った。
例年、新入社員の2、3割が最初の3カ月で「辞めたい」と言い出すが、今年はそれがゼロ。採用支援と企業ブランディングを手がけるベンチャー企業、プレシャスパートナーズの高崎誠司社長が、胸をなでおろす。
乗り切れた理由は、昨年から始めた採用手法にある。
「説明会から面接、内定後の研修まで一貫して『入社後に味わうつらさ』を伝え続けたんです。これも一種のRJPですね」
「RJP」とは、Realistic Job Preview(現実的な職務情報の事前開示)の略で、平たくいえば「さらけ出す採用」。近年、採用関係者の間で注目されている手法だ。
高崎さんの会社では、社員にアンケートを実施。「最もつらかった体験」として挙がったのが、テレアポだった。日常のコミュニケーション手段はSNSで、電話をかけることはほとんどない世代にとって、同社で求められる「1日100件のテレアポ」はかなりの苦行だ。さらに「アルバイトと違い、結果が問われるプレッシャーがつらい」「成果が出ずに『自分は向いていないのでは』と不安になる」など、アンケートで集まった社員のリアルな声を、採用活動で応募者にさらけ出した。
日本では、大卒の新入社員の約3割が3年以内に離職する状況が、ここ20年以上続いている。離職理由の多くは、入社前に抱いていた「期待」と、入社後に実際に目にする「現実」とのずれだ。
企業は説明会や採用サイトで「グローバル」「やりがい」「成長」といった華々しい言葉をちりばめがち。
「ですが、魅力的な情報だけを出して応募者を多く集め、そこから絞り込むという従来型の採用は通用しなくなっている。人手不足の中でより重要なのは、応募者数ではなく、定着してくれる人をいかに効率よく見つけるか。そのためにはネガティブ情報も含めて正直に現実を伝えるのが一番です」(高崎さん)