「文学で#MeTooをやりたい」という思いで書かれた柚木麻子さんの『マジカルグランマ』。6月21日、上野千鶴子さんとの対談が紀伊國屋書店新宿店で実現した。
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直木賞候補になった柚木麻子さんの新作『マジカルグランマ』の主人公の正子は70代。75歳を目前に髪を銀髪にし、シニア俳優としてデビューしたところ、「日本の理想的なおばあちゃん」として大ブレーク。ところが正子の夫の急死をきっかけに仮面夫婦だったことがバレて、世間から大バッシングを浴びる。世の中の「こうあるべき」を脱ぎ捨て、したたかに生きる正子の姿が痛快な物語だ。
上野千鶴子(以下、上野):『マジカルグランマ』、おもしろく読ませていただきました。私、「マジカル○○」という言い方を知らなかったんですが、「マジカルニグロ」という言葉がヒントになっているんですね。
柚木麻子(以下、柚木):はい。私の大好きな映画「風と共に去りぬ」もそうですが、白人が作ったフィクションの中で、黒人が白人にとって都合のいい、献身的な存在として描かれることを指すんです。黒人俳優がアカデミー賞にノミネートされる場合、メイド役とか、白人を助けてくれる「マジカル」な役が多いともいわれています。
上野:「マジカルニグロ」の原型は「ハックルベリー・フィン」ですね。社会学では「モデルマイノリティー」と言いますが、多数派にとって都合のいいマイノリティー(少数派)のことですね。マイノリティー自身にとっては、「こうあるべき」という抑圧にもなる。
柚木:そうなんです。子どものころに夢中になった文学や漫画でも、いま読むと差別的だったり。「なんでここに引っかからなかったんだろう?」と思うことが多くて。時代も変わったし、私自身も変わったんだと思うのですが、でもそれらの文学が私を作ったことは事実なんですよね。いまの我々は引き裂かれている世代だと思います。
上野:この小説のなかで正子は、「可愛いおばあちゃん像」を自ら脱ぎ捨てますね。