稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
ご存知日の丸弁当!これを心から美味しいと思えたら、世のゴチソウなどチャラくてやっとれんに違いない(写真:本人提供)
ご存知日の丸弁当!これを心から美味しいと思えたら、世のゴチソウなどチャラくてやっとれんに違いない(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 夏になると梅干しを毎年仕込むという「ザ・丁寧な暮らし」の見本のような行為をあちこちで自慢していたところ、雑誌の取材依頼が。梅干し特集をするので作り方を指南して欲しいとのこと。

 なんと! 指南ですか……っていうか私、単に本を見てその通りに作っておるだけなんですが(汗)。我が丁寧な暮らしの化けの皮がつるりとむける。しかし「いいんです。誰でもできるってことを話して頂ければ」と粘られて、恐る恐るお引き受けした。

 で、正直にネタ本を持参し「これを見て毎年やってます」と白状。「カビが生えてもそこだけ取れば無問題」「塩漬けのとき天使のような香りが!」などと次第に図に乗ってペラペラ話していたところ、「イナガキさんは梅干しが本当にお好きなんですねー」と言われ、はたと立ち止まる。

 いやー私、梅干しそんなに好きじゃないかも……。

 っていうかよく考えると、子供の頃から好きだったことなんて一度もない気がする。だって尋常じゃなく酸っぱい、塩(しょ)っぱい。ヤツはあまりに過剰だ。やりすぎである。なので積極的に食べるというより「あれば、目をつぶって食べる」感じ? いやー、それってむしろ「嫌い」というレベルに近いのではないか。

 なのになぜ毎年せっせと仕込むのか。謎だ。最初は好奇心だった。同僚が作っていると聞き、エ、あれって作れるのと試してみたら案外簡単にできちゃって単純に気を良くしたのである。で、作るとせっせと食べる。時間も手もかけるんだから嫌いとか言ってる場合じゃない。「案外美味しい」と自己暗示をかけて食べる。しかしやはりヤツは過剰だ。それでも良いところを見つけようと頑張り続けてはや10年。ようやく、ご飯の上に必ず1個乗せるのが習慣になった。それでも食べるたびに顔をしかめている。

 この調子だと死ぬまで「好き」に辿り着けない可能性が高い気もする。でもそれでいいのかもしれぬ。受け入れがたきものを受け入れる。それが人生の醍醐味なのだ。おそらく。

AERA 2019年7月1日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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