米国やフランス、ドイツなどでは、犯罪に巻き込まれた被害者や遺族に補償金を支給する制度が設けられ、外国人も対象だ。たとえば、01年米同時多発テロで死亡した日本人被害者の遺族には米政府から補償金が支払われた。

 12年8月にルーマニアで殺害された大学生の益野友利香さん(当時20)は、首都ブカレスト郊外の空港に到着した後、20代の男に声をかけられ、タクシーに同乗。近くの森で絞殺された。海外インターンシップの一環として、日本語を教える目的でルーマニア入りした直後のことだ。益野さんは2カ月間の短期滞在だったため、ビザなしで入国し、「観光客」扱いだった。

 男は益野さんら3人の女性を殺害した罪で翌年、終身刑が確定。同国の補償制度は外国人も対象に含まれるが、観光客は対象外で、益野さんの遺族には適用されなかった。

 日本では、海外で犯罪に巻き込まれた被害者や遺族の救済が遅れ、長年、蚊帳の外に置かれてきた。米同時多発テロの直後、国会で被害者の遺族支援について質問があり、当時の小泉純一郎首相は「国家が補償する制度は現在、存在しておりません」と回答。以来、テロ被害者家族の有志は、海外での犯罪被害者の補償について検討するよう、国会議員や関係省庁に申し入れてきた。

 道が開けたきっかけは、13年2月に日本人3人が犠牲になった米領グアムの無差別殺傷事件だ。死亡した横田仁志さん(当時51)の高校の同級生が、海外で犯罪に遭った被害者の支援を求めて法整備を訴えた。

 16年6月、国外犯罪被害弔慰金支給法が成立。海外で犯罪に巻き込まれた被害者や遺族に見舞金を支払う「国外犯罪被害弔慰金等支給制度」が生まれ、死亡時には一律200万円、重度の障害を負った場合は一律100万円が支給されることになった。この法律が施行された同年11月30日以降に発生した、テロを含む事件が対象だ。

●国内外で救済額に格差、遺族からは「不公平」の声

 一方、国内で起きた犯罪の被害者や遺族を救済する「犯罪被害給付制度」は、1974年の三菱重工ビル爆破事件などを契機に議論が湧き起こり、81年に始まった。

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