※写真はイメージ(gettyimages)
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子育て夫婦のトリセツ【家事】(AERA 2019年7月1日号より)
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子育て夫婦のトリセツ【仕事や生活】(AERA 2019年7月1日号より)
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子育て夫婦のトリセツ【子育て(子どもが乳幼児】(AERA 2019年7月1日号より)
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子育て夫婦のトリセツ【子育て(子どもが小学生以上)】(AERA 2019年7月1日号より)
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 夫婦は環境も経験も違う中で育ってきた他人同士。家事や育児に対しても価値観は違い、昇格などのキャリアアップや周囲の意見に影響され悩むことも。夫婦の信頼関係を築く方法とは。

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*  *  *

 育ってきた環境や経験による家事・育児の価値観の違いは話し合いで可視化し、アウトソーシングするなども有効だろう。自分のほうが正しいと主張するのではなく、お互いに相手のやり方も聞きながら妥協できる線を探っていく作業が必要だ。

 解決が難しいのが、根深く心の中にある考え方のすれ違いだ。

 大学講師として働く40代の女性は、中学生女児の母親。数年前に夫が会社の役員に昇格した。その途端、夫は「役員だから」と、スーツをオーダーメイド仕立てに変えた。住宅補助の限度額がなくなり、借家はグレードアップ。恩恵は認めている。ただ、夫は“役員の妻”である女性にある「お願い」をした。

「靴を磨いてくれと言うんです。役員の妻は、みんなそうしているって」

 女性が取り合わなかったことを夫が職場で話し、ひどい妻というイメージに。夫の同僚からは、「奥様がご活躍だと大変ですね」とまで言われた。

「ほかの役員妻からは『やってあげたらいいのに』と言われました。でも、そんな夫婦の習慣を娘の世代に引き継ぎたくない。男性はもともと、いろんな面で優遇されるゲタを履いて、昇格やステータスの階段を上ってきたという自覚がゼロなんです」

 こうした女性の考えに対して、夫が議論の最後に口にするのは、これ。

「男が外で働き女は家庭を守るのが本来は自然。男には古代から狩猟民族の血が流れている」

 ああ、絶望しか感じない……。

「性別役割分担が、部族によっては全く反対だったという著名な研究もあります。まず男女で役割を分断するのは乱暴です」

 そう話すのは、家族社会学などが専門のお茶の水女子大学大学院、石井クンツ昌子教授だ。

「大黒柱であるべきという男性の生き方は、成育環境や社会規範などから形成されたもの。妻は靴を磨くべきと思う男性は、ピアプレッシャー(仲間からの圧力)もあったのでしょう。社会の中で学んで行動するのが人間。夫と妻の価値観や規範などの違いは、その社会が強く影響しています」

 夫を変えるテクニックや、妻のトリセツといった情報はあふれているが、男だから女だからと決めると、的外れになる可能性がある。石井教授は「信頼関係を築くための会話は有効」とし、こう助言する。

「相手を都合のいいパートナーに変えるためにエネルギーを浪費するなら、自分のために時間を使うほうが健全でしょう。子どもは家庭の中で経験も考え方も違う大人に触れて、多様性を学び成長します。互いの違いをポジティブに考えましょう」

 40代の会社経営者の男性は帰宅すると、妻が消臭剤を手にシュッシュッと吹きかけながらついてくる。男性が歩いたカーペットを除菌するためだ。

「雑菌扱い?と最初は気になったけど、もうあきらめた。お互いがあきらめてる感じですが、ずっと仲はいいです」

 話し合う。ダメならあきらめるのもアリ。夫婦の形はそれぞれだ。(ライター・三宮千賀子)

AERA 2019年7月1日号より抜粋