岸田文雄政権の人権意識に関して疑問の声が出ている。弁護士の寺原真希子さんはこんな課題を指摘する。
【写真】性的少数者への根本的な偏見に憤りを覚えたと話す弁護士の寺原真希子さん
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今回の荒井勝喜・首相秘書官(当時)の発言を聞いて、婚姻の平等(いわゆる同性婚)がきちんと議論されてこなかった背景には、このような差別的な考え方があったのかと憤りを覚えました。法案策定以前の問題として、性的マイノリティーへの根本的な偏見や無理解が政府内に存在し、人権問題であるということが共通認識とされていなかったことは大変残念です。
岸田首相の「(同性婚は)すべての国民にとっても家族観や価値観、社会が変わってしまう課題であり極めて慎重な検討を要する」という国会答弁も、日本で最初に国会で同性間の婚姻について質疑がなされた2015年の安倍元首相の答弁から変わっていません。
「慎重な検討を要する」と言いながら、この8年間、政府は同性間の婚姻について検討を開始すらしていません。19年6月に野党から同性間の婚姻の法制化のための「婚姻平等法案」も出ていますが、そちらも審議されずに放置されています。
多くの世論調査では7割近くが同性間の婚姻に賛成していて(今年2月の共同通信の調査では賛成64%、反対25%)、世代別に見ると60代までは賛成が多く、70代ではじめて賛成と反対の割合が拮抗します(今年2月のNHKの調査では60代までは全世代において賛成が6割超、70代で賛成40%、反対43%)。実は日本では、同性間の婚姻が法制化された海外よりも、賛成割合が高いのです(19年に同性間の婚姻が法制化された台湾では、18年の時点で賛成割合は37.4%)。
法律の制定・改正を担う国会や政府では高齢男性議員の影響力が大きいことが、世論との乖離が生じている一因かと思います。一人ひとりの国民が幸せに生きられるための法制度を整備するのが国会議員の義務ですが、マイノリティーの声が反映されにくいのが実情です。
そのような状況を受けて、19年に、同性間の婚姻を認めていない現在の法律は違憲だと訴える裁判が五つの地域で始まりました。