稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
この記事の写真をすべて見る
先日知り合いに頂いたアフロ靴下。か、かわいい…。しかしこの可愛さは髪が黒いからじゃないかと思ったり(写真:本人提供)
先日知り合いに頂いたアフロ靴下。か、かわいい…。しかしこの可愛さは髪が黒いからじゃないかと思ったり(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【稲垣さんが知り合いに頂いたアフロ靴下の写真はこちら】

*  *  *

 前回、メイクの迷宮から脱出したと誇らしくご報告した。だが、さらに手強い迷宮のことも語らねばなるまい。それは、白髪染め! ああこれこそは、一旦足を踏み入れたら「やめどき」が最も難しいアイテムではなかろうか。

 いつものようにカラーをお願いした美容師に「あの……そろそろ白髪染めにしないと」と遠慮がちに言われたあの日の衝撃は今も忘れない。なるほどこれからは、オシャレとは「楽しむもの」から「何かを隠すもの」に変わるのだと思い知った瞬間であった。

 だがこれが隠しても隠れてくださらないのである。

 染めたすぐ後から生え際のホワイトはじわじわ成長。これが目立つ。何より「何かを隠している自分」が目立つ気がして気が気じゃない。なので少なくとも月一度は染める。もちろんその間も現実の私の髪はどんどん白くなっているに違いないのである。

 これがメイクと違う恐ろしいところなのだ。メイクは徐々に薄くできるが、白髪染めは基本ゼロか100か。気づけばもう落差がすごすぎるに違いなく、今さら本当の私なんてとても見せられやしない。ってことは、死ぬまで白髪染め?

 と悶々としていたので、近藤サトさんの「白髪染めやめました」宣言には大いに勇気を頂いた。だって白髪のサト様実に美しい。これならやめても大丈夫っぽい……いや待て待て。コトはそう簡単ではない。まず第一に、サト様は美人である。第二に、サト様は和服を多くお召しになっているようである。和服美人と白髪……トータルコーディネートとして完璧である。

 で、私。美人じゃない。しかもアフロ。自転車生活だから和服とか絶対無理。サト様のようになれるはずないではないか。だが思い切って5カ月前から白髪染めやめてみた。まー白いのなんの。思わずひるむ。だがある日、近所のカフェのお姉さんに「髪染めました? いいですね」と言われた。染めとらん。白くなっただけ。でもその一言に大いに勇気をもらいスキップして帰る。人は何気に人を救う。

AERA 2019年5月27日号

著者プロフィールを見る
稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

稲垣えみ子の記事一覧はこちら