アフターピルの避妊成功率は90%ほどで、100%ではない。有効時間も薬により異なる。多くの国でOTC化されているノルレボは72時間以内、エラは120時間以内に服用(撮影/倉田貴志)
アフターピルの避妊成功率は90%ほどで、100%ではない。有効時間も薬により異なる。多くの国でOTC化されているノルレボは72時間以内、エラは120時間以内に服用(撮影/倉田貴志)
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 望まぬ妊娠を避けるための「アフターピル」。緊急用途の薬だが、日本では入手しづらい。薬のオンライン処方が解禁されるが、専門家からは、市販薬にすべきとの声も上がる。

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 平日の深夜2時、神奈川県在住の女性(26)は青ざめた。コンドームが破れてしまった。パートナーとの性行為中の、思わぬアクシデントだった。

 避妊に失敗した場合、一定時間以内にアフターピル(緊急避妊薬)を服用すれば、妊娠の可能性を大きく下げることができる。朝からは仕事がある。女性は夜間でも処方してくれる病院をネット検索して、予約。不安な思いで一日を過ごし、退勤後1時間かけて東京・新宿のナビタスクリニックへ。到着は夜8時。30分後には、医師から説明を受け、アフターピルを飲んだ。

「まだ妊娠は考えていなかったので、ほっとしました。都市部に住んでいて、よかったとも思いました」(女性)

 望まぬ妊娠を避けるためのアフターピルは、イギリスやオーストラリアなど世界76カ国では薬局などで購入できる一般用医薬品(OTC)だ。アメリカ、カナダ、フランスなど19カ国ではコンビニやガソリンスタンドでも販売している。だが、日本では医師の処方が必要だ。

 ナビタスクリニック理事長の久住英二医師は、日本のアフターピル事情は時代遅れだという。

「緊急用途の薬だというのに、必要なときに入手しづらい。2016年度の人工妊娠中絶件数は16万8千件にのぼり、年齢は20~40代が多い。中絶した人の多くは、成人した社会人です」(久住医師)

 避妊に失敗したとき、「もしかして」のために、仕事を休んでまでクリニックを受診する人はそう多くない。近くに病院自体が少なく受診が難しい、近所に知られる懸念から来院をためらうなどのケースもあるという。

 3月、厚生労働省はアフターピルのオンライン処方解禁の方針を決めた。だが、4月に行われた検討会の議事録によると、「産婦人科専門医に限定」「犯罪被害者に限る」「3週間後の産婦人科受診を義務化」など、極めて限定された内容に、疑問の声が上がりはじめている。

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