海岸を埋め尽くす無数の漂着物。韓国風のパック入りバナナ牛乳や焼酎などのペットボトルが転がっている。なかには、シャンプーや歯磨き粉チューブもあった(撮影/ライター・金正太郎)
海岸を埋め尽くす無数の漂着物。韓国風のパック入りバナナ牛乳や焼酎などのペットボトルが転がっている。なかには、シャンプーや歯磨き粉チューブもあった(撮影/ライター・金正太郎)
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撮影/ライター・金正太郎
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 歯磨き粉やハンドクリームのチューブに、焼酎やヨーグルト飲料のボトル。北朝鮮からのはた迷惑な漂着ごみは、生活の変化を映し出していた。

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 2月中旬、日本海に浮かぶ中国地方にほど近い離島には、強い季節風が吹きつけていた。小石で埋め尽くされた海岸を進むと、韓国や中国から大量のプラスチックごみが漂着する中、「黒ビール」と朝鮮語で表記されたペットボトルを見つけた。拾い上げると、ラベルにはアルコール度数の「11°」、製造元は「元山子供食料工場」、キャップには「2018・10・20」と、製造年月日が刻印されている。製造元の名称などから韓国ではなく北朝鮮の製品だと分かる。

 この島では10本以上、本土でも漂流物が多い海岸では1カ月で計40本にのぼる北朝鮮のペットボトルを見つけた。日本海沿岸で北朝鮮の漂流物を探索して8年目に入るが、ここまで大量に北朝鮮のペットボトルが見つかるのは初めてのことだ。

 11年秋、海岸で細いチューブを見つけたのが北朝鮮漂流物との出合いだった。チューブには朝鮮語で「歯薬(歯磨き粉)」「新義州化粧品工場」と表記されており、北から生活ごみが日本に流れ着く実態に驚いた。その後もハンドクリームのチューブ、歯ブラシやポリタンク、軍用の帽子も相次いで見つけた。歯磨き粉チューブの一部には三角に切った「ネコ耳カット」があり、最後まで中身を使い切ろうという、庶民の知恵がしのばれた。

 ペットボトルを初めて見つけたのは16年2月、今回訪れた離島の同じ海岸だった。それが、昨年あたりから、どこの海岸でも北朝鮮のペットボトルを見かけるようになった。突出して多かったのが焼酎のボトル(500ミリリットル入り、25度)。原材料はドングリとだけ表記があり、ボトルの中に小さい柑橘系の実を入れ、味付けした痕跡がある物も見つかった。製造元は元山郊外にある「松涛園(ソンドウォン)総合食料工場」とある。調べると、同工場を金正恩氏が現地指導したと18年7月26日、北のメディアが報じていた。

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