国がお墨付きを与え、ポジティブなイメージで語られるようになった副業・複業だが、日本労働弁護団事務局次長で弁護士の川上資人さん(41)は危機感を募らせている。
「国は副業で新たなスキルや経験を得て、キャリア形成にもつながると掲げていますが、そうした副業ができる人はどれほどいるのでしょうか。現実は、働き方改革で残業が抑制されて、所得が下がった分をダブルワークで補えるようにする発想。このままだと本業の基本給はますます上がらなくなる」
残業を減らして「ワーク・ライフ・バランス」を重視する時流に反するダブルワークは長時間労働のリスクも高い。副業や兼業の労働時間は、労働基準法や通達で本業の労働時間と「通算する」とされていて、1日8時間を超えると残業代の対象だが、本業の会社に内緒で副業している人や、フレックスタイム制で日々の労働時間が変則的な場合もあり、会社をまたいでの就労管理が難しく、労働時間を通算して残業代が支払われているケースはほとんどない。
副業中にけがなどを負って全ての仕事を休むことになっても、労災給付は副業分の賃金に基づく休業補償金のみ。過労死や過労による精神疾患の認定も、企業ごとに判断されるため、認定のハードルは高くなる。
「こうした労災はそもそも認定されづらいけれども、副業の場合は立証のしようがない。好きで副業してたんでしょ、と言われてしまうでしょう」(川上さん)
1社で働くことを前提とした制度の中では、自分の身は自分で守らなければいけないのだ。
インターネットを通じて好きな時間に仕事を請け負うクラウドソーシングや、スマホのアプリでリクエストを受けて飲食店から一般家庭へ自分の自転車やバイクで料理を運ぶフードデリバリーサービスなども人気の副業だが、契約上は雇用ではないため、労働者として保護されない。最低賃金も適用されず労災も対象外。事故による補償も十分でない。
「副業にはたくさんのリスクがあり、これから踏み出そうという人はそこもきちんと考えてほしい。本業で適切な時間働いたら、十分に暮らせる社会をまず作っていくことが大事だと思います」(川上さん)
(編集部・深澤友紀)
※AERA 2019年5月20日号より抜粋