日本社会全体がネコ的なつながりに変わるには難しいかもしれませんが、たとえば終業後の飲み会が減ったり、転職が珍しいものではなくなったりと、徐々に個が重視されるようになってきました。だからこそ、ネコ風の「ゆるいつながり」も忘れずにいたいものですね。

 仲間とのつながり方も、人間とでは大きく違います。

 SNSの投稿が「素敵な私」で溢れているように、私たちは自分の長所のアピールに必死です。友達から「いいな~」と思われる、上司に認められるためには、自分の良いところを見せることが必要、ということもあるでしょう。しかし、それに疲れている自分もいるはずです。

 一方ネコは、「弱さ見せることでつながっている」と宿南先生は言います。ネコの友だちの作り方は、次のようなものです。

 ネコが仲間をつくるときには、鼻と鼻をくっつけあい、自分の大きく脆い目を相手にさらします。目を怪我してしまうと狩りができなくなるため、この挨拶は自分の弱みを相手にさらすことで、「大好きだよ」「信用しているよ」ということを相手に伝えている行為だそうです。

 弱いところを見せ合うことで、絆を確認しているのが、ネコ。私たち人間も、「素敵な自分」を作り上げることでつながる関係だけではなく、お互いの弱いところや素のままの自分を見せ合い、認め合う関係を大切にしたいものです。

 そのためには、親しくなりたい人に対して、まずあなたから、「素敵な自分」を取り繕うのをやめてみましょう。そんなあなたを受け容れてくれる数人とより深い関係を築くことができれば、その他の大勢の人とのつながりが今のままでも、毎日をずいぶん、心地よいものに変えられるはずです。

「人がよりよく生きるための考え方と、ネコの生き方には、数え切れないほどの共通点があります。私たちはネコから単に癒しを得るだけでなく、その生き方に学ぶことができます。そしてその生き方は、アドラー心理学に通じるものがあるように感じています」(宿南先生)

 もし、あなたが日向でゴロゴロしているネコを見て、

「ネコは気楽でいいなぁ」「ネコみたいにラクに生きられたらいいのに……」

 と思ったとしたら、ネコの生き方に触れてみるのがいいかもしれません。人間とは全く違ったネコの生き方、考え方に触れると、周りの景色が少し変わるかもしれません。(構成/黒坂真由子)

■宿南章(しゅくなみ・あきら)
獣医師。アドラー心理学認定カウンセラー。今までに飼育した動物は保護フクロウから秋田犬など2000匹以上に及ぶ。ネコは保護ネコを含め20匹以上。

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