姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
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(写真:gettyimages)
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 4月11日から12日に開かれた北朝鮮の国会にあたる最高人民会議において憲法が改正されたようです。この会議で国務委員長に再選された金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長に、あらたな称号として「最高代表者」が加わりました。

 憲法の上では国を代表するとされてきた最高人民会議常任委員長には、1998年から務めてきた金永南(キムヨンナム)氏に代わって、新設された国務委員会第1副委員長にも選ばれた正恩氏の側近、崔竜海(チェリョンヘ)氏が就任しました。

 その崔氏は正恩氏を「朝鮮人民の最高代表で、国の全般を指導する国会の最高職責者」と述べています。これらの動きからも、憲法改正によって正恩氏が対外的にも北朝鮮を代表する元首としての地位を得たことがわかります。

 最高人民会議の前日に行われた党中央委員会総会で正恩氏は非核化には触れず、「自立的な民族経済を土台にし、自力更生の旗を高く揚げ、社会主義建設をさらに進める」「制裁で我々を屈服させると血眼になり、見誤っている敵対勢力たちに深刻な打撃を与えなければいけない」と語りました。とはいえ北朝鮮は第3回の米朝首脳会談を行う用意はあると述べています。今年の年末までは忍耐をもって米国の勇断を待つ、という構えのようです。

 時を同じくしてワシントンで開かれた米韓首脳会談にも非核化進展への大きな期待が寄せられました。しかし、北朝鮮に対してあくまでも「オール・オア・ナッシング」の姿勢を崩さない米国と、「段階的アプローチ」で制裁緩和を訴える韓国。両国の溝が指摘される中での会談でしたが、残念ながら溝は埋まりませんでした。

 このまま平行線のまま時間だけが流れていくのでしょうか。もしかすると急展開があるかもしれません。5月には新天皇の即位式がありますし、6月には大阪でG20があります。トランプ大統領は2度にわたり日本を訪問します。日本に来た以上、すぐそばの韓国を素通りというわけにはいかないでしょう。再び米韓首脳会談がセッティングされ、第3回米朝首脳会談へと動き出す可能性も否定できません。

AERA 2019年4月29日号-2019年5月6日合併号