タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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昨秋、父が他界しました。自宅で倒れ、脳梗塞で意識不明となり、救急搬送。母に「救急車呼んで」と言ったのが最後の言葉となりました。
20年以上前にも脳梗塞で入院し、退院後は幾分かのしゃべりにくさがあったものの、その後は服薬しながら通常の生活をしていた父。さらに心筋梗塞で手術をしたこともあり、日頃から体には気をつけていたようです。しかし翌月に久々の脳の検査を控えた昨年11月、85歳を目前にして倒れ、最期は付き添っていた私の腕の中で逝きました。意識不明のまま、4日間頑張った父。全力で走りきって眠る子どものような顔でした。私は最期の12時間しか一緒にいられなかったけれど、親密なみとりの時間を持てたことに感謝しています。
父は随分前から、万が一の時の準備を進めていたようです。クリアファイルにまとめられた資料はいわゆるエンディングノートとしてとても整理されたものでした。遺言状には、遺される母の生活を気遣う文言が並んでいました。家族だけでシンプルに行う直葬を望んでいた父は葬儀会社を指定。祭壇の花の色やBGMを決め、CDまで準備。なんと遺影は数年前に自宅で自撮りしてデータで残しており、これが実によく撮れていました。辞世の句も推敲を重ねて練り上げたもの。連絡先リストの最後の更新は、亡くなる前月。私が東京で暮らしている部屋の新住所を書き入れたものでした。
母と姉と私は父の指示通りに葬儀を手配し、連絡先にハガキを出し、すでに購入済みだったお墓に納骨。全てがスムーズで、パパは本当に仕事ができるな!と感心しました。
全て本人の希望通りにしてあげられて思い残すことなく、パパもきっと満足しているよね、と笑顔で話し合えました。そんな私たちを見て父も安心してあちらに行けたことでしょう。私も46歳。保険や連絡先など暮らしの大事なデータがそのままエンディングノートになるアプリが欲しいです。備忘録であり、最後の素敵なプレゼントにもなるから。
誰か作ってくれないかしら。
※AERA 2019年3月25日号