青森県八戸市には「市営」や「ポップごと買える」といった個性的な書店が集まる。ネットに負けじと、リアル書店の強みを生かして良書との出合いを演出する。
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ビールやコーヒーを片手に、書店で本を選ぶ人々の姿。「ネット販売にはない温かさがあります」。カフェでランチを食べる感覚で訪れた女性は、落ち着いた口調でにこやかに語る。
書店は、ネット販売や活字離れもあって厳しい状況に置かれている。書店調査会社アルメディアによれば、1990年代末に2万3千店ほどあった全国の書店は、2018年時点で1万2千店ほどにまで減少した。
だが、時代の流れに反発するように、書籍による地域の活性化に取り組んでいる街がある。青森県八戸市だ。
小林眞市長が読書で多くの知識や教養を得たことから、「本のまち八戸」の推進を13年の市長選で公約。市民が良書と出合う場の創出、文化の薫り高いまちづくりなどを目的に、16年12月、離島を除けば全国で初となる自治体直営の書店「八戸ブックセンター」がオープンした。
本を「読む人」を増やす。本を「書く人」を増やす。本で「まち」を盛り上げる。この三本柱で目指す「本のまち」の拠点だ。
「多岐にわたる本を取りそろえるだけではなく、ドリンクを飲みながら本について語り合う交流会や、小説の書き方や電子書籍の作り方など執筆・出版に関するワークショップなどを開催しています」と話すのは、ブックセンターの熊澤直子さん。
店内には「カンヅメブース」もある。「市民作家」と名づけた、利用登録した人が使える原稿執筆用の無料レンタルスペースだ。17年度末までに143人が登録し、自費出版も含め実際に出版された作品が店内に陳列されるなど、市が多くの人の目に触れる機会をつくり出す。
開店からの1年間で、来店者数16万7576人(1日平均537人)、販売書籍数9998冊(同32冊)を記録。1日平均の目標としていた来店者数300人、販売書籍数30冊を上回るなど、関心を集めた。