経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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『ホモ・デウス』でユヴァル・ノア・ハラリが示した分析は、わたくしがここ10年ほど、「これからこうなる」と言っていた話にかなり近い。わたくしは実際に世界中でしがない中小会社を経営しており、投資、収益、分配(給与支払い)という機能を一手に引き受けているので、理屈はともかく、起きていることやこれから起きることには敏感にならざるを得ないのです。
ハラリの分析を大まかにいうと、人間はネアンデルタール人を駆逐したものの、その後は格差拡大の連続という歴史だったということ。農業革命は多くの人口扶養を可能にしたものの、実際に農作業に就く農民とその土地を持つ領主という格差を生み出した。その領主の資本蓄積はやがて産業資本となり、産業革命が起き、今度は労働者と資本家の関係に変化していきます。農業革命が1千年単位の変化とするなら、産業革命はせいぜい200~300年の間に労働者と資本家の格差を拡大していったと言えます。
さらに1980年代からのいわゆる貨幣革命では、資本家は生産の現場からも大きく離れ、金融資本家という形で企業を牛耳り、まさに今の経営者とサラリーマンの関係が強化されました。モルガン財閥ができたあたりを起点にすると、格差拡大はさらにスピードアップしてわずか100年足らずです。
しかし、資本家とサラリーマンの格差といってもせいぜい、メルセデスに乗っているか、カローラに乗っているか程度の差です。東京名古屋間をメルセデスなら1時間で行けるのに、カローラなら8時間かかる、というならすごい格差だけど、現実にはかかる時間は変わらないし、新幹線になれば乗っている箱が違うだけ。格差といってもせいぜいそんなもんで、生活そのものが大きく乖離しているわけではない。まあ、だからサラリーマンは自分が奴隷以下だと気が付かない、ということもあるかもしれませんね。