日本の製薬大手・アステラス製薬(東京都中央区)の50代の男性社員が中国・北京で3月、スパイ行為に関与した疑いで国家安全当局に身柄を拘束された。中国で狙われやすい人とは、気をつけるべきことは、もしも社員が拘束されたら……。各国のスパイ事情に詳しい元警視庁の公安捜査官で、セキュリティコンサルタントの松丸俊彦氏に、中国のスパイ事情について聞いた。
「外交カードとしての拘束の可能性もある」
松丸さんは今回の男性社員の拘束についてそう話し、日本人が狙われやすい政治的な理由があったとの見方を示す。
「日中平和友好条約の締結から今年で45年目。日中関係は悪化しているなか、今年5月には広島でのG7サミットが控えています」(松丸氏、以下同)
松丸さんの指摘のように、昨今は中国側にとって不満が高まる状況にあった。
たとえば3月にロシアと中国の首脳会談が行われているなか、同じ日に岸田首相はウクライナへ電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ほかにも2月末に、駐日中国大使が離任する際、日本政府はあいさつを断る”異例”の事態が判明している。2001年以降、駐日中国大使を務めた5人のうち、特段の理由がない限り、歴代大使は離任時に首相と面会をしている。
とはいえ、中国ではそんな容易に邦人を拘束できるものなのだろうか。
「中国はスパイを取り締まる反スパイ法を2014年に制定しています。ただ定義があいまいで、スパイ活動に従事した疑いがあるというだけで、具体的な情報などを明らかにしないで身柄を拘束できるようになったのです。14年以降、17人の日本人が拘束されました」
中国には22年10月時点で約10万人の日本人がいる。どんな人が狙われやすいのだろうか。
「中国は共通して、情報や人脈のより多い人物を拘束します。バックパッカーとかではなく、特定の分野の主要人物だったり、ある程度の肩書を持っていたりする人です」