米国のトランプ大統領が打ち出した「自国第一」路線。国際協調を壊しかねないこの考え方が、米国だけでなく他国にも広がり始めている。
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「グローバル主義を拒否し、愛国主義を受け入れる」
9月25日の国連総会演説で、各国首脳を前に宣言したトランプ大統領。パリ協定やNATOのみならず、TPP(環太平洋経済連携協定)やイラン核合意といった国際連携の枠組みに加え、国際原子力機関(IAEA)や世界貿易機関(WTO)などの国際機関も標的にして、多国協調による意思決定プロセスを徹底的に拒絶している。
自国の利益のみを追求するという方針は、国際問題よりも自身の生活を重視する一般国民には極めて理解しやすい。米国に代わって国際協調の牽引役となった独仏を始めとするEU各国でも、トランプ政権の発足以降、反EUや反移民・難民を合言葉に自国第一主義を掲げる急進的な右派政党が急速に支持を伸ばしている。
特に移民や難民の受け入れに対して、EU各国の有権者の拒絶反応は強い。EUの象徴であり続けたメルケル首相が10月29日、21年の任期満了で首相を引退することを表明するほどまで影響力を失ったのも、15年の難民・移民大量流入問題に端を発する寛容な移民政策に、有権者が反発したことが原因だ。
16年の国民投票で英国がEU離脱を決めたのも、EUに縛られない移民政策や国境管理を自国で決められるようにするためだ。英国では今、メイ首相がEUと合意した離脱協定の内容がEUの影響力を完全に排除するものになっていないとして、与野党双方から批判が噴出し、下院で承認が得られない事態となっている。メイ首相も独仏の首脳同様に追い込まれている。
トランプ政権は問題解決を国際舞台に求めず、相手国との直接交渉でいかに自国の主張を通すかというパワーゲームに軸足を置く。勝つか負けるかのゼロサムで、挑発や脅しまで駆使して交渉を有利に進めようとする危険なディール外交だ。そのためには友好国とも対立するし、対立国とも手を組む。当然、各国の関係に変化が生まれた。