だが、その結論を迅速、正確に関係者に浸透させなければ、せっかくの決断も絵に描いた餅に終わってしまう。リーダーには決断力だけでなく「発信力」も求められているのだ。
どうしたらリーダーの決断が現場に伝わり、メンバーが納得して動いてくれるのか。
「それには従来の『発信型』ではなく、受け取る側の状況を考えた『着信型』のアプローチが必要」
と語るのが人材育成・研修を手掛けるリクルート マネジメント ソリューションズのエグゼクティブコンサルタント・天野徹さんだ。
経営ビジョンを社内に発信する場合を考えてみよう。ポイントはトップダウンで一気に現場に下ろすのではなく、管理職層→職場→個人(従業員)と段階を踏んで理解・共感してもらいながら徐々にしみ込ませていくこと。各職場の個人が自分の仕事とビジョンを結び付けて動けるようになれば第1段階は成功。
その後、職場から取り組み事例が出てくればそれを経営層に上げて、改善策や次の施策に生かす。上の指示を待つことなく、現場が自主的に動ける組織になれば言うことはない。
働き方改革にも使える
部長や課長でも当てはまる。企業を部や課、経営層を部長や課長に置き換えて読めばいい。ある企業の例では経営層と個人の間で、発信と着信がキャッチボールのようにやり取りされているのが分かるだろう。(図参照)
このアプローチは今はやりの「働き方改革」で、テレワーク(シェアオフィスや在宅での勤務)や男性の育児休暇など新たな制度を浸透させるのにも使える。2020年度までに従業員の所定労働時間を1日7時間に短縮することを目指す味の素の働き方改革も、「トップの決断を着信型で浸透を図っている好例」(天野さん)だという。(フリー記者・及川知晃)
※AERA 2018年12月24日号