御法川修(みのりかわ・おさむ)/1972年、静岡県生まれ。監督作に「人生、いろどり」(2012年)、「すーちゃん まいちゃん さわ子さん」(13年)などがある(撮影/写真部・片山菜緒子)
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「母さんがどんなに僕を嫌いでも」/漫画家・歌川たいじの同名コミックエッセーを映画化。太賀と吉田羊の演技も見どころだ。全国公開中 (c)2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

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 幼少から母親(吉田羊)に拒絶され続けた青年タイジ(太賀)の物語。原作者・歌川たいじさんの実体験がもとだ。重い題材だが、監督はいわゆる「社会派」ドラマにするつもりはなかったと話す。

「原作のコミックエッセーと出合ったのは2013年です。母と息子の確執や虐待も描かれていますが、僕がもっとも心を動かされたのは、大人になったタイジが現在進行形で得られている愛やポジティブな感情を、親から愛されなかった過去の自分に『渡してあげる』という、いままでにない感覚なんです」

 誰にでも思い出したくない過去はある。それを葬るのではなく、自分なりの方法で向き合おうとするタイジの姿に新たな気づきをもらったという。実際、映画は予想外に明るいトーンに彩られている。大人になったタイジは歌いながら台所に立ち、劇団でミュージカルにも挑戦するのだ。

「SNS時代のいま、世間には起こる事象に対して妙に客観的で冷淡な空気が蔓延している。だからこそ僕はこの題材で、逆にベタで濃密な空気を提示したかった。いまどき海辺であんなふうに戯れる若者たちなんてあり得ないんですけど(笑)、それをファンタジーでなく『こうなってほしい』という思いで描きました。俳優陣にもあえて“ベタな”芝居をお願いしたんです」

 吉田羊演じる母親・光子を「ひどい母親」としてだけに見せないことにも心を注いだ。

「もちろん彼女の行いを認めることなどできない。でも僕は彼女を単純な“加害者”と描きたくなかった。なぜなら、光子の不安や迷いは僕にもよく理解できるから。僕はいま46歳ですが、20代のときに想像していた“大人像”になんてまるでなれていないし、毎日を『これでいいのかな』とおっかなびっくり生きている。子育てに直面した光子も、同じだったと思うんです」

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