「クラフトビール」なるものがある。没個性ビールとは違う、癖ビール、言ってみれば“ビールの個性化”か。単価が高いのがイヤな感じだが、「ブランドビールで、かつ、冷えてさえいればいい」という十進法的な考えとは違った、自分の嗜好(しこう)に合った小数点以下の味わいがそこにはある。

 テレビのエンタメをこのビール問題に置き換えてみよう。「芸人」というサービスが、娯楽のど真ん中に来てから幾久しい。昔は癖の塊のようなジャンルだったものが、随分な変わり様。

 かつてのビール戦争時の“スーパードライ”みたいなものがテレビにおいての「芸人」だったのかも知れない。だが、ドライは行き渡って常識化した。「お笑い」がそうである。あらゆるジャンルに芸人が入りこんで、「安定した面白さ」が担保されているが、画一から溢れた「部分」はまだあるだろう。お笑いがあるだけで満足だった時代は終わった。「どの笑いを好きか」を自分で見つけるか、逆に演者は、見つかるためにどういう個性を出すかを研ぎ澄まさなくてはいけなくなっている。

 私もそういう芸人でいたかったのだが、どうもそうじゃないことがここ数年でわかってしまった。だったらクラフトビールみたいになろうじゃないかと思った次第ではある。

 ちなみに私の単価はそう高くない。案外誰の口にも合う。どうか警戒しないでいただきたい。

※AERA 2018年11月26日号

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