戦後日本人の夢を形にした視聴者参加型番組の時代から、「アメリカ横断ウルトラクイズ」に代表されるクイズ王の時代、超高速化する早押しを競う競技クイズの時代へ──。ガラパゴス的な進化を続けてきたクイズの世界に、今新たな地殻変動が起こっている。
* * *
土曜の昼下がり、約130人キャパの渋谷のトークライブハウスは満員だった。8割方が女性。サイリウムを振ったり、手作りの推しうちわで応援したりする人もいる。一見アイドルのファンミーティングのようだが、これは史上初のクイズ番組の応援上映イベントだ。「東大王」(TBS)で活躍する現役東大医学部生の水上颯(そう)さん(23)が登場すると、会場から歓声が上がる。
水上さんのファンだという大学3年生の女性は、「水上さんのクールビューティーぶりにはまった」と言う。
「クイズが好きなのが伝わってくるところがいい。『東大王』でも楽しそう」
一緒に来た20代後半の女性は徳久倫康さん(30)のファンだ。徳久さんは、オープン大会3年連続最多勝(2015~17年)で“競技クイズ界最強の男”と言われ、早稲田大学の卒業論文を元に書いた「国民クイズ2.0」(「日本2.0」所収)というクイズに関する論文も発表している。
「女性は頭のいい男の人が本能的に好き。活躍している人はルックス以上にカッコよく見える」
自ら解答者としてクイズに参加するのではなく、純粋にクイズを鑑賞する観客が出現している。「クイズジャパン」編集長の大門弘樹さん(44)は、「かつてはテレビを観るしかクイズを楽しむ選択肢がありませんでしたが、SNSの発展に伴って、クイズプレーヤー自身の個性や活動が可視化され、直接見てみたいという流れを生みました」と言う。
現在、競技クイズの大会は年間100以上も開催されている。競技クイズの興隆を大門さんはこう分析する。
1960~80年代の「アップダウンクイズ」や「クイズタイムショック」に代表される視聴者参加型クイズ番組の時代があり、その後89年から93年あたりには「クイズ王ブーム」がくる。ところがこの波もバブル崩壊でクイズ王番組の予算が縮小。「史上最大!アメリカ横断ウルトラクイズ」(日本テレビ)も終了してしまう。そして「ウルトラ」に憧れてクイズを始めたのに大学入学時には視聴者参加型番組がなくなっていた74年前後生まれのロスジェネ世代が、自給自足的に大会を作る流れが94年あたりから加速する。その中で問題はどんどん難問化し、早押しは高速化していった。そして「なぜや」「マロリー」(問:「なぜ山に登るのか」という質問に「そこに山があるから」と答えたことでも知られる有名な登山家は? 答:ジョージ・マロリー、というクイズにおける定番問題)に代表される、ガンマンのような早押しの世界が出現するに至った。