

「コンニチハ。オヒサシブリデス」
東急ハンズ(ハンズ)渋谷店の照明コーナーに立つ亀井輝夫さん(67)を目当てに外国人客がやって来た。電球を買いに来たのだ。こうした固定ファンを持つシニア店員がハンズには少なくない。それもそのはず。専門知識が半端ないのだ。
亀井さんは大手電機メーカーに30年以上勤め、54歳のとき「技能社員(現・マイスター社員)」としてハンズに入社した。亀井さんは言う。
「第二の人生はハンズみたいなところで働きたかったんです」
自身の知識を伝え、将来の技術者の芽を育てたい思いがあった。そんな亀井さんには忘れられない接客がある。
「高校生に電子工作のアドバイスをしたところ、後日、お母さんがわざわざ来店して『大会で優秀な成績をとりました』と報告してくださった。嬉しかったですね」
ハンズでは1976年の創業以来、専門的な技術や知識を持つシニア人材を積極的に採用しリスペクトしてきた風土がある。渋谷店のインテリアコーナーに立つ澤頭(さわがしら)潤一さん(68)は大手アパレルメーカーに約30年勤め、店長も経験。ハンズに56歳で入社した。きっかけは「趣味」だった。
「熱帯魚や海水魚などを飼うのが好きで、(退職後は)ペットの仕事に就きたいと思っていました」(澤頭さん)
ペット売り場では「飼っている金魚の調子が悪い」と来店した客に、水槽に塩を入れ少し様子を見ることを勧めた。2、3日後、客が笑顔で再来店した。
「『金魚が元気になりました』って。こういうとき、やはりやりがいを感じますよね」
でも、ふと思う。そこで塩を勧めてしまっては売り上げが立たないのでは。大丈夫……?
「いいんです」
と広報の山田一之さん(55)。ハンズは客にとって“最後の砦”“駆け込み寺”のような場所でもある。「ない」と言わない接客をモットーにしていて、店になければ代用品や他店を紹介することもある。
「満足していただければ、リピーターになっていただけますから」(山田さん)