哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、倫理的視点からアプローチします。
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沖縄県知事選挙で玉城デニー候補が自公の推す佐喜真淳候補を大差で下した。選挙結果についてはいろいろな解釈があり得ると思う。「想定内だった」という人もいるだろうし、「潮目が変わった」という印象を持った人もいるだろう。私はこういう時は「何も変わらない」という予測よりも、「大きな地殻変動の予兆かもしれない」という解釈を採用することにしている。
私が乱を好む気質だからではない(私の「判で捺(お)したようなルーティン」への愛を知っている方にはご案内の通りである)。大きな変化があるかもしれないと心の準備をしていた方がもしもの時に慌てずに済むからである。つねに変に備えるのは心の平静を求めているからである。
その点から、今回の県知事選はいくつか興味深い変化の兆しが見えた。
一つは出口調査では、公明党支持層の4分の1が玉城候補に流れたことである。内心では玉城候補の政策に共感しながら、立場上、党の推す候補に投票した人たちも勘定に入れると、沖縄の現場と公明党国会議員団の安倍政権への評価の間には想像以上に深い亀裂が生じている。党が改憲問題の取り扱いを誤ると、この亀裂はさらに拡(ひろ)がるだろう。公明党執行部は学会内世論の分裂を収拾するためには、どこかで政権への距離感を表明せざるを得ない。その時に安倍政権の土台が揺らぐことになる。
もう一つは、自民党が安倍総裁の3選後最初の重要な地方選挙に総力戦で臨んで負けたことである。辺野古移転に一切言及せず争点隠しに徹し、党幹部を総動員し、組織的な締め付けを行い、無党派層に向けては経済的な利益誘導の手形を乱発するという「常勝」戦術が今回は奏功しなかった。安倍政権6年の「成功体験」として血肉化していた選挙戦術が破綻したのである。
だが、自民党執行部はこの敗北を謙虚に受け止め、これを教訓として、目先の利益誘導をやめて、重大な長期的論点について野党との真剣な政策論議に向かうという方針転換をすることができるだろうか。「潮目が変わった」ことを認めれば生き延びられるだろう。「想定内だった」と笑って過ごせば政権もそれまでである。
※AERA 2018年10月15日号