2時間の“密室もの”。音楽もない。会話だけで成立させるのは、ある意味冒険だ。

「『チャレンジしたい』という思いと、『できるだろうか』という思いがありました」

 大杉からは、死刑囚を誰が演じるのかが重要だと言われていた。ワンセットだからこそ、教誨室と外の世界をどう想像させるかが大切だ、とメールでアドバイスももらった。

「どうすればお客さんが興味を持って見続けてくれるのか。大杉さんは、常にそのことを考えていらっしゃる方でした」

◎「教誨師」
10月6日から全国順次公開。今年2月に急逝した大杉漣最後の主演作となった。死刑囚役は光石研、古舘寛治ら

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 会話だけの密室劇──。そう聞いてまず思い浮かべるのが、密室劇の金字塔とされるシドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」だ。

 舞台は1950年代のアメリカ。少年による殺人事件の裁判で、12人の陪審員のうち11人は有罪を主張するが、そのうち1人だけが無罪を主張。だが、それぞれが口を開くと、一人、また一人と「無罪」の方に心が傾き始める。

 ほぼ会話だけで95分。そう聞くと「飽きるかも」と思ってしまう。それでも見続けてしまうのは、練られた台詞一つ一つから人物像が浮かび上がり、その動作や表情から心の内を読み取ろうと力が入るからだ。たとえば、ハンカチを持つ手、そこに向けられる視線。アップも多用され、カメラは円を描くように動き、閉ざされた空間を映し出す。

「教誨師」の佐向大監督も、撮影監督と「どう撮るか」を徹底的に話し合ったという。

 緊迫感を感じ、自分もその空間に投げ出されたかのような感覚に陥る。それこそ“密室映画”の魅力だ。

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(ライター・古谷ゆう子)

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