ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
この記事の写真をすべて見る
(c)朝日新聞社
(c)朝日新聞社

 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

【写真】トランプ米大統領

*  *  *

 前回は、リーマン・ショックの原因の一つになったレバレッジについて説明しました。「100億円のビル1棟よりも、1千万円の資産を1千個集めた100億円の資産の方が倒産確率が低い」という数学の理屈で資本が少ない資産に高い格付けが付き、多額のローンが貸し出された、という話でしたね。

 ところが、実はその資産の中にサブプライム(信用性の低い)ローンが入り込んでいたわけです。住宅バブルがはじけてみたら1千の資産が同時多発的に毀損し、さらに実際に差し押さえに行く方法すらなく、担保とは名ばかりで、実際には紙切れでしかなかった──というのが、あのリーマン・ショックの引き金なのです。

 かつて大手投資銀行のベアー・スターンズでそんな金融商品を販売していた私には、破綻したら絶対に回収不能だ、という確信がありました。なので自ら販売停止を決め、会社をクビになりましたが、その判断は今でも間違っていたとは思っていません。

 担保があるように見えても差し押さえが実行不可能なのは、どの投資銀行も知っていました。結局「俺は担保を持っている」と叫んでみたところで本当に持っているわけではないので、「ここは危ない」と言われたところから追い込まれていきます。誰も資金を融通してくれなくなるわけですね。それが資本主義における信用というものです。その結果、わたくしがいたベアー・スターンズとリーマン・ブラザーズが倒産し、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスはかろうじて難を逃れた、というのが2008年に起きたことだったのです。

 そして、資産が分散していることだけが安全の根拠であったこれらの危ない債券(ローン)を大量に保有していたのは日本の銀行でなく、実は欧州の銀行であったことをわたくしは知っていました。実際に売っていたからです。ですからアエラ誌上で次は欧州危機だ、とすぐ言い始めたわけですね。当初、なんでヨーロッパなんだ、と蔑みの目で見られましたが、予告通り欧州危機がやってきましたね。

 さて、今の米国経済統計を見る限り、レバレッジは3倍程度に抑えられていて、当時と違い若年労働人口の増加に見合って需要や与信が伸びている。それらが08年時の総額を超えたからバブルの再現だ、という、前回の経済新聞の記者は勉強不足を反省するべきでしょう。正直、今の米国経済を揺るがすリスクはトランプ大統領の気まぐれだけだと言っていいと思います。

 ここで「危機の芽」とかいうのは、東京にはいつか地震が来るぞ!!と叫んでいる次元と変わらない、ということです。そりゃ、いつかは来るのですが、それをやっていたらフェイクニュースの嵐になってしまうわけですね。

AERA 2018年10月1日号