冷蔵庫問題を抱えていた前出の教育関係の女性に3年前、転機が訪れた。子どもたちの学童の迎えがなくなり、夫の料理デーに買い物する余裕ができ、そこに夫が合流することがあった。
「夫がその日作るメニューを聞いて『それならショウガを切らしているから、買わなきゃ』って。初めてそういう会話を交わせました。結婚15年にしてやっとです」
最近では夫も冷蔵庫に残っている食材を確認して献立を調整したり、LINEなどでまめに情報共有したりするようになった。
「完全に任せられることで、すごく楽になりました」
日々の献立をルーティン化することでツーオペの台所を実現している夫婦もいる。医療関係の仕事に就き、2人の子を持つ女性(42)は、平日は自分よりも帰宅時間の早い夫(33)が料理のメインを、遅れて帰る自分は途中から副菜作りに加わるなどして、連携している。
ツーオペがスムーズに進むのは、月曜はひき肉料理、火曜は鶏料理、水曜はカレーやシチューなど、献立を曜日ごとにルーティン化しているからだ。週末の買い物も楽で、夫婦で食材把握もしやすい。
妻も夫も本格的に家庭料理を作るようになったのは長男(8)が生まれてから。夫の作る料理の味つけが「子どもには塩分濃度が高いのでは」と感じる妻と夫との間で意見がぶつかり合うときもあったが、客観的な指標を持ち込むことで解決した。夫は言う。
「塩分濃度計を買い、子どもの適正な塩分量を測るようにしました。今では測らなくてもだいたいわかります」
藤田教授は、料理を作る能力について性差はないと言う。実際、家庭料理は女性に偏りがちだが、プロの料理人は圧倒的に男性が多い。スキルは経験を積むことでつく。
「大事なのは結婚や出産のスタート地点で夫婦2人で料理に取り組み、スキルを一緒に身につけていくことです」(藤田教授)
加えて「家庭料理のハードルを上げすぎないことが重要」。そう語るのは、発売中の「AERA with Baby」で、夫と妻で作れる「ツーオペ・レシピ」を紹介するフードスタイリストのダンノマリコさん(45)だ。
「家庭料理をあまり難しく考えすぎないことです。名前のついた料理を作ろうとするのではなく、スーパーに行ってそのとき安くたくさん並ぶ旬の食材を使って作る。少ない工程で食材の風味を引き出す料理にすれば、簡単で時短。大人も子どももおいしく食べられます」
例えば、鮭は魚グリルで焼くだけ。納豆は手を加えず出せる。いんげんとにんじんは切って電子レンジにかけ、おかかとしょうゆであえるだけ。大根も切って梅干しと一緒にポリ袋に入れ、軽くもみこむだけだ。ダンノさんは言う。
「台所を妻だけの牙城にしないことです。夫だけでなく、子どもも自然に入れるようにすればワンオペからマルチオペへ。世代を超えてつないでいけます」
(編集部・石田かおる)
※AERA 2018年9月17日号より抜粋