株主優待を実施する企業はバブル崩壊時の1992年に247社だったが、2017年末時点では1368社に急増した(大和インベスター・リレーションズ調べ)。そして6月20日現在は1454銘柄。全場上銘柄の約4割が株主優待を実施していることになる。
かつて優待は食品会社や鉄道・航空会社、百貨店が大半を占めていた。大事なお客さまでもあり株主でもある個人投資家に、自社の商品やサービスに親しんでもらう「おまけ」感覚の制度だった。
優待導入が急速に増えたのは2002年ごろからだ。2000年のITバブル崩壊、翌2001年の米国同時多数テロなどで日経平均株価が1万円を割り込み、企業が株価対策を迫られた時期である。
これまで安定株主だった銀行や生命保険会社は、政府の方針に従ってリスク資産である株式を次々と売却していった。
金融機関や海外投資家の放出する株式の受け皿として期待されたのが個人投資家である。大半のお金を預貯金で保有する家計から株式市場に資金を誘導すれば、個別企業の株価対策だけでなく、企業活動も活発化する。優待は、個人マネーの呼び水として大きな期待がかかった。
優待の導入について政府の腰は重く、税制優遇などの支援措置はなかった。しかし、証券会社と上場企業が二人三脚で導入を進め、マネー誌などを巻き込んで優待ブームが起こり、導入する会社数が右肩上がりで増えていったというわけだ。
優待が新設された銘柄は個人株主が増えるので、企業としては狙い通り。だが、優待にはコストがかかる。優待品そのもののコスト、事務処理にかかる人件費、発送費……。なぜ、膨大なコストをかけてまで、企業は優待を実施するのだろう?
たとえば3000円相当の自社製品を優待で送る企業があったとする。企業にとって、3000円の配当金(つまり現金)を株主に渡すより、自社製品のほうが安く済む。
自社商品を送ることで、個人株主=消費者としてファンになってほしいという狙いもある。
また、会社が上場を維持するためには、一定数以上の株主がいる、という基準を満たさなければならない。安定して保有してくれる個人株主が多いと、上場基準の心配をする必要もなくなる。
外資系ファンドからの敵対的買収の対象になりにくいという隠れたメリットもある。目先の利益を追いかける機関投資家ばかりが株主だと、株価も安定しにくい。
最近は長く持つと優待内容がグレードアップする継続保有制度が激増している。機関投資家などのプロが短期的な業績変動により株式数を増減させる中、優待制度は株価安定の特効薬である。(経済ジャーナリスト・大場宏明、伊藤雅浩)
※『AERAwithMoney大人の株主優待ランキング』の記事に加筆・再構成