初めて食べた野郎ラーメンが思いのほかおいしかったこともあり、翌日には新橋店を訪れた。だが順調だったのはこの2日だけ。結果から言えば1カ月で食べられたのは4食で、1杯あたり2322円の高級ラーメンとなってしまった。私の通勤経路には店舗がなく、電車に乗って出かけなければならないのが敗因だったように思う。

 しかしこのひと月、私の中での野郎ラーメンの存在感の大きさといったらすごかった。食事のことを考えるたび、候補に野郎が挙がる。すでに代金を払っているため、「タダで食べられる」感覚とともに「食べなければ損」というプレッシャーがある。

 Netflixやアップルミュージックは、普段は忘れていて気づいたときにイッキ見したりする。ところが映画や音楽と違って、胃の容量には限りがある。次に食べられるタイミングはいつか。その「計算」のために、常に野郎ラーメンのことを考えることになった。昼飯、夕飯、はたまた夜食。その日の予定と照らし合わせながら、近くに店舗がないかと何度もアプリを開いた。存在感を最大化すること、これがもしかして企業にとっては、いちばんのサブスクリプション導入の効果ではないだろうか。

 野郎ラーメンを運営するフードリヴァンプの広報担当・黒木勝巳さんによれば、パスポート購入者の8割以上が元を取っている、つまり月に12杯以上食べているそうだ。開始月には毎日食べた猛者が7人いたという。

「常連のお客様に喜んでもらえるサービスを、と始めました。その意味で目的は達成できていると考えています」(黒木さん)

 ちなみにこのパスポート、自ら解約しない限り自動更新されるので気をつけてほしい。気がついたら2カ月目の野郎ラーメン生活の幕が上がっていた。(編集部・高橋有紀)

AERA 2018年7月30日号