怖い存在でありながら魅惑的で、一筋縄ではいかない悪人。そんな悪人たちが都内の6施設に勢ぞろいした。心惹かれながら自問する。悪の本質とは、いったい何なのか。
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私たちの周りには「悪」があふれている。
ニュースで陰惨な事件が流れるたび、あるいは身近なちょっとした出来事に、悪意の気配を感じることは珍しくない。だが、「悪」とはなんだろうか。
慎ましく暮らす庶民にはない大胆さ。財宝を盗むルパン三世は悪人だけれど、常識を軽々と超える魅力も備えた存在だ。小説や映画などの物語で、社会のルールを逸脱するピカレスクの爽快感は、エンターテインメントになくてはならないものだ。
「悪」は怖く、同時に魅惑的でもある。一筋縄ではいかないこうした「悪」のさまざまな面をテーマにした展覧会が、多分野連携展示「悪」だ。
太田記念美術館、東洋文庫ミュージアム、ヴァニラ画廊、国立劇場伝統芸能情報館、国立演芸場演芸資料展示室、そして、國學院大學博物館──普段は独立した企画を立てている東京の六つの施設が、同じテーマで同時に展示をするのは初めてのこと。画期的な連携は、どのように実現したのか。
呼びかけ人で太田記念美術館の主幹学芸員・渡邉晃さんは「悪というテーマなら、いろいろな施設が参加できるのではないか、と考えた」と語る。
「1年くらい前から各館に声をかけはじめました。共通するテーマは『悪』と決めておいて、あとはそれぞれの館にお任せしています。結果的に、その館ならではの個性が出ました」
太田記念美術館では2015年にも「江戸の悪」展を開催し、通常の浮世絵ファン以外の来館者があり、好評だった。
「渋谷を歩いているような若い男性のグループなど、普段あまり見かけないような方々も、多く来館されました」(渡邉さん)
2回目となる今回は、展示作品も約220点とパワーアップ。盗賊、侠客(きょうかく)、悪女、ストーカー(江戸時代にもいたのだ)から妖術使いまで、江戸に生きた悪人が勢ぞろいしている。