台湾の高齢化は日本を上回る早さで進展しており、2060年には高齢化率で日本を追い越すという予測もある。その台湾で昨年12月、人口8600人の自然豊かな村に在宅医療を行うクリニック「都蘭(ドゥラン)診療所」が開所した。日本でも最近あらためて関心が高まっている在宅みとりの定着を最終的な目標と位置づけ、地元住民とともに高齢者の全戸調査を試みるボランタリーな活動も始まっている。モデルとしているのは日本の地域密着型在宅医療だ。
都蘭は台湾南東部の中心都市、台東(タイドン)から北北東へ車で30分ほどのところにある台東県東河(ドンヘ)郷の村。サーフィンの人気スポットとして知られ、日本や欧米の観光客も訪れる。
1月22日、その一角にある都蘭診療所を出た乗用車が山間の村へ向かっていた。野生の猿が出没する観光名所を通り越してしばらく進むと、泰源(タイユエン)村が見えてきた。目的地はさらにそこから10キロほど先にある北源(ベイユエン)村。東河郷の山間部に点在する患者たちを、同診療所の余尚儒(ユシャンル)医師(36)が往診して回っていた。看護師1人と診療所のスタッフ1人が同行する。
北源村は、住民登録上の人口約1800人のうち、370人ほどが65歳以上。高齢化率は約20%だが、住民登録をしたままで都市部へ働きに出ている人が多数いるため、実際はさらに高い。
余氏がその日3軒目の往診先を訪ねたのは午後5時20分ごろ。診療所を出発してからすでに約3時間。外は暗くなりかけている。余氏は認知症の男性(79)から話を聞くと、あおむけに寝てもらい、携帯型の超音波診断装置を腹部に当てた。滞在は約30分。男性宅から引き揚げようとしたところへ、男性の娘が勤め先から帰り、さらに立ち話で服薬について話が始まった。
同診療所では開所から3カ月となった3月16日までに、230人が患者として登録。このうち、在宅医療の往診を受けている患者は、すでに死亡した1人を含む22人で、余氏や看護師による訪問は緊急時の対応4回を含む延べ69回だった。スタッフは、余氏と看護師1人、事務局2人の4人。