

遠隔医療というと離島などを思い浮かべがちだが、実は都市部でも「オンライン診療」として広まりつつある。「3時間待ち、3分診療」という現況より、画面越しでも「深いことまで話せる」と頼りにする患者がいる。「先生ってこんな優しい表情なんだ」と心を通わせる診療の現場とは。
IT会社に勤めていた三橋隆行さん(東京都江東区在住、50)は、約10年前、「筋強直性ジストロフィー」を発症。成人で最も多い遺伝性の筋疾患で、筋力低下や筋萎縮が起こる難病だ。
三橋さんは仕事が続けられなくなった。現在は同居する母、和子さん(77)の手を借り、自宅で療養生活を続けている。
取材当日、三橋さんは自室のベッドに座り、手元のスマートフォンの呼び出し音が鳴るのを待っていた。「オンライン診を予約していたのだ。
今年4月から、オンライン診療に健康保険が適用されるようになった。スマホやパソコンを通じ、ビデオチャットで医師の診療が受けられる。
コールを受けた三橋さんは、地元のかかりつけ医である小野卓哉医師(51)と「画面越しに」互いの顔を見ながら話し始めた。
小野「調子はどうですか?」
三橋「歩くのがしんどくて」
小野「食事はどうですか?」
三橋「肉がうまく噛めません」
三橋さんは、都内の大学病院で難病の専門医による診療を受けている。併発している糖尿病と高血圧症は小野医師が担当。医院までの距離はわずか数百メートルだが、昨年末からは、家の中でも杖が欠かせなくなった。通院がハードルになっている。
「通院の時は、5~6回は休みながらで、やっとやっとです。待合室で待つのもしんどい。看護師さんに抱えて立ち上がらせてもらいます」
そんな事情から、昨年8月から通院を4週間ごとから6週間ごと、8週間ごとと順次切り替えた。3週間目、または4週間目にオンライン診療を取り入れることで、通院の負担を減らしている。三橋さんは言う。
「診察室は待合室に患者さんが大勢いて、話すに話せない。先生、外来ではマスクをしているし、カルテを書いて忙しそうだし。目と目を合わせる感じは、オンラインのほうがあるんじゃないかな。先生って、こんな優しい表情で話す人なんだって、オンラインで初めて知った。より深いことまで話せる」
小野医師は、オンライン診療が慢性疾患を抱える人の治療離脱防止に役立つと考えている。