働く時間や場所、立場にこだわらない生き方は、確実に広がりを見せている。

 2014年12月、東京都世田谷区に保育施設付き会員制サテライトオフィス「マフィス」を立ち上げた「オクシイ」の高田麻衣子さん(41)。37歳で起業するまでの15年間は、2度の育児休業を挟みながらの模索の日々だった。

 新卒で不動産ディベロッパーに入社。会社では男女差は感じなかったが、当時の業界は圧倒的に男社会。5年ほど勤めた後、「もっとキラキラした仕事を」とブライダルの会社に転職した。

 ブライダル業界は業界構造も男女比もまったく違う世界。表舞台に立つのは圧倒的に女性のサービススタッフだった。前職の経験を生かそうと店舗開発を希望したが、ポスト不足で配属は人事部。周囲ともかみ合わず、収入もダウン。結局4カ月で不動産業界に戻ることに。

「明らかに私のリサーチ不足。失敗でした」(高田さん)

 1年後に結婚。ほどなくマネージャーに昇進したが、直後に第1子を妊娠した。1年間の育休の後は別の部署に配属され、仕事も人間関係も最初からやり直しだった。長男は病気がちで入退院を繰り返した。長男の体調が落ち着き、ようやく仕事も本格的に回りだしたころ、2人目を授かった。会社は祝福してくれたものの、同時に「またなの?」という空気も。2度目の育休は3カ月で復帰した。そこに起きたのが東日本大震災だった。

「いったい何のために働いているのか」。悶々とする日々が続いた。そんなある日、満員電車に揺られながら保育施設付きシェアオフィスのアイデアを思いつく。

「『この(通勤・通園の)時間が一番無駄』と思ったんです。自宅、保育園、職場の三角形を限りなく小さくできないかと」

14年、会社員生活に終止符を打ち、「オクシイ」設立へとつながった。震災以降、企業の地方移転やテレワークの導入が急増した。現在はそのムーブメントも落ち着きつつあるが、再び働き手の確実な変化を実感する。

「ここ数年で女性の社会参画と同じぐらい、男性の『生活参画』が浸透してきたと感じています。夫も妻も、時短勤務やダブルワークが自然な選択になってきた。再びテレワーク人口が上昇するかもしれないと期待しています」

(ライター・浅野裕見子、編集部・市岡ひかり澤志保)

AERA 2018年5月14日号より抜粋