作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は性被害者の訴えについて。
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日本社会が長年放置し、見て見ぬふりをしてきた故ジャニー喜多川氏による性虐待問題が、ようやく大きな声で語られはじめようとしている。先日はついに、ファンによる署名活動がはじまった。
「わたしたちはジャニーズ事務所に所属するタレントを応援するものとして、このままでは心から応援するのは難しいと感じています」
ファンの切実な思いだろう。署名活動では、1:被害者の声を聞くこと、2:性加害の検証、3:謝罪、4:被害者への支援、5:再発防止、をジャニーズ事務所に求めている。実際にファンの方に話を聞く機会があったが、それぞれの推しへの強い思いがあるからこその抗議であることが痛いほど伝わってきた。署名はゴールデンウィークあけにジャニーズ事務所に直接届ける予定だという。
今の時点でジャニーズ事務所は、「関係者各位」宛てに「問題がなかったなどと考えているわけではございません」と記した文書を送付している。これまで全くの無視を貫いていたことを考えると、大きな前進だ。私自身、1カ月前にAERA. dotでこの問題を書いた時は、恐る恐るという気分があったけれど、今はまた違うフェーズで語れる空気ができあがっている。日本外国特派員協会で被害者が会見をするなど#MeTooの声は着実に広がり、各新聞社をはじめ、NHKでもこの問題を報じはじめた。
もちろん声をあげた被害者を非難する声は根強くある。ファンの中にも、「夢を壊すな」などと、被害者をバッシングする人もいる。それでも、被害の事実を前に、もう過去と同じ風景を見ることはできないはずだ。
ハリウッドの#MeTooを描いた映画「SHE SAID」にこんなシーンがある。加害者のワインスタインの記事がいよいよ出るという段階になって、ワインスタインとその取り巻きらが新聞社を訪れ、女性記者を激しく責める。「あの女は嘘つきだ」「売名行為だ」「こんな記事を出したら、お前のキャリアに傷がつくだけだ」……。それでも記者は一切動じない。被害者の声を聴き続けた記者に脅しは「雑音」にしか聞こえず、ワインスタインの姿そのものが「風景」にしか見えなくなっているからだ。真実を前に恐れるものはないという決意が見える大事なシーンだ。今回も、被害者の声に寄り添ってきた記者の20年以上にもわたる粘り強さが、芸能界における前代未聞の規模の性被害を、世界に知らしめた。