大学での実験を終え、自宅アパートに帰る。シャワーを浴び、スーツに着替える。スマートフォンにダウンロードした面接アプリを立ち上げ、画面に映りこむ範囲を確認して片付ける。椅子に座り、面接開始ボタンを押す。午後10時になっていた。
「ゼミや部活、サークル活動、アルバイトなどで、とても苦労したり困難な状況を乗り越えたりした経験はありますか?」
約1時間半にわたり機械音の質問が続き、スマホに向かって答え続けた。近未来の話ではない。これは実際に村田昌弥さん(24)が昨年受けた、鶏卵の生産や販売を手がけるアキタ(広島県福山市)が導入した「AI面接」だ。同社にAI面接サービス「SHaiN」を提供するタレントアンドアセスメント代表取締役の山崎俊明さん(44)は、AI面接の狙いをこう話す。
「人が面接しても15分程度で良い人材を見抜くことは難しい。面接担当者によって質問が変わったり、担当者が男性か女性かで緊張の度合いが変わったりして公平な評価も難しい。AI面接は最大90分にもなり、想定問答でごまかすことはできない。導入の目的は効率化ではなく、良い人材を見抜くことです」
AI面接の最大の利点は、面接の時間や場所を選ばないことだ。今春、アキタに入社した村田さんは振り返る。
「自宅なので交通費もかからず、好きな時間に面接を受けられるので、大学の授業にも影響は出ない。地方の学生には嬉しい」
アキタでは今年から地方出身者の1次面接をすべてAI面接に置き換えた。アキタ人事部の谷本麻衣さんはこう話す。
「これまでアプローチできなかった遠方の学生の反応もあり、応募者数は増えている。AI面接で人事担当者の負担が減った分、説明会を多く開催し、内定者フォローにも力を入れたい」
「AI就活元年」とも言われる2019年卒の新卒採用。リクルートキャリア(東京都千代田区)が実施した新卒採用に関する調査では、AIの導入を検討する企業は7.5%、従業員5千人以上の企業では23.4%に達する。AI導入で期待する成果は「マンパワーの削減」(73.7%)が圧倒的だ。AIに面接を導入する企業はまだまだ一部だが、エントリーシート(ES)の合否判断をAIに任せる企業は増えている。